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2019.09.04
「デザインが変えるものづくり」コトモノミチatTOKYO@墨田業平|訪問型セミナーSpeak East vol.13(8/30開催) #イベントレポート

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東東京の先輩起業家の仕事場にお邪魔して、創業の体験談やビジネスの内容をお聞きする訪問型セミナー「Speak East」。13回目はクリエイティブディレクターとして活躍される金谷勉さんにお話しを聞きに行きました。手がけるものはデザインに留まらず、職人や工場との協業や地方創生に寄与する活躍をされています。

会場は、墨田区にあるコトモノミチatTokyo。墨田区の「新ものづくり創出拠点事業」(新しいアイデアや発想を持った人材を呼び込み、区内の空き工場等を活用して、区内事業者や区民等と連携をしながら新しい製品、技術、サービスやものづくりコミュニティを創出する)の10拠点目となる場所です。同社と全国各地の職人や中小企業が一緒になってつくりあげたプロダクトが展示されている店舗に、20名を超える人たちが集まりました。

代表の金谷さんは、大阪・東京・京都を拠点に、幅広い分野でクリエイティブワークを行う、グラフィックデザイン事務所として「有限会社セメントプロデュースデザイン」を立ち上げました。企画から流通までをデザインと捉え、商品プロデュースや企画ディレクションだけではなく、全国各地の町工場や職人との協業しながら、中小企業の再生や未来もつくっていくプロジェクトも手掛けています。ゼロから始めた活動が協業プロジェクトへとどうつながっていったのかをお聞きしました。

【日時】
2019年8月29日(金) 19:00〜21:30

【会場】
コトモノミチ at TOKYO
東京都墨田区業平4-7-1
https://coto-mono-michi.jp/

【ゲスト】
金谷勉(かなやつとむ)氏/有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役/クリエイティブディレクター

【ファシリテーター】
鈴木 淳 氏(台東デザイナーズビレッジ 村長)

【タイムテーブル】
19:00-20:30 第一部 金谷氏トーク/質問
20:30-21:30 第二部 交流会

「デザインすることは、コト(技術)モノ(意匠)ミチ(販路)まで揃うこと」と学ぶ

金谷さん自身は、デザイナー出身ではありません。大学卒業後に就職してデザイン会社を立ち上げたのは28歳のとき。ツテもなく支援者もいないなかでのスタートでした。

小さな商品でも営業のきっかけになります。そこで自社商品として初めてのプロダクト作りに乗り出し、発売となったのが「Happy Face Clip」でした。

「Happy Face Clip」はロングセラー商品に。可愛いデザイン。

「Happy Face Clip」はロングセラー商品に。可愛いデザイン。

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発売から14年間で販売累計が計25万個を超すロングセラー商品ですが、そこに至るまでは困難の連続だったのだそう。資金も乏しい中で工場探し、金型代、流通の商慣習と壁ばかり。この経験を通して、モノづくりにはたくさんの工程と手間がかかるのが身にしみてわかったそうです。そして同時に「コト(技術)モノ(意匠)ミチ(販路)」を揃えて、考え動くことが商品をデザインすることだと考えるようになります。商品を作って終わりではなく、買い手まで届いて初めて商品となるという考え方です。

iphoneケース「iTattoo」の大ヒットで気づいた、「小さな企業は売れなくても売れても大変だ」

商品は売れなくても売れても大変だと痛感したのは「iTattoo(アイタトゥー)」を発売した時のことです。商品名の通り、iphoneに装着すると企業のロゴマークであるリンゴが皿に載っているように見えるなど遊び心溢れるiphoneカバーが、大ヒット商品となります。

そこで非常に苦労したというのが、他企業から出される類似商品の数々。大切な商品に対して、知財権も特許権も確保していたものの、国内外問わず類似商品が流通するようになり、類似商品を購入したお客さまから苦情の連絡がくることもあったと言います。オリジナル商品の発売元ということで、なぜか他社が販売した類似商品のクレーム対応に追われることに。「小さな企業は商品が売れないことは苦しい、でも売れても大変」。商品が売れることで起こるさまざまな問題を対処した金谷さんは、改めてものづくりの大変さを知ることとなったようです。

商品が大ヒットしても、手放しで喜べないこともあったと語る金谷さん。

商品が大ヒットしても、手放しで喜べないこともあったと語る金谷さん。

メガネをミミカキへ。鯖江市の企業を技術の再定義によって復活させる

日本最大の総合見本市・東京インターナショナル・ギフト・ショーにも出展するようになります。出展社が百貨店や専門店などの売り手と出会い、商品をPRする絶好の機会となる場です。そこで、2012年2月に出会ったのが福岡県鯖江市の眼鏡材料商社・株式会社キッソオでした。

鯖江市は眼鏡フレームの国内生産シェア96%を誇る眼鏡の一大生産地です。眼鏡メーカーに材料を供給してきたキッソオは、2008年のリーマンショックをきっかけに売り上げが半減し、本業の眼鏡以外の活路を見出そうとしていました。

当時全国に約500店の取引先があった金谷さん。さまざまな経験から、商品を考えるにあたって技術の再定義をします。それまでの「メガネを作っている会社」から「メガネやセルロース素材を加工できる会社」に定義し直したのです。そして、試行錯誤を重ねてギフト・ショーに出品したのが「Sabae mimikaki(サバエ ミミカキ)」でした。

眼鏡のフレームの製法を転用したことで金型費用を抑え、あくまでも眼鏡の産地鯖江であることにこだわった商品名、売り場に並べられて販売されることを想定したパッケージのデザインにしました。
2012年9月のギフト・ショーが初のお披露目となった「Sabae mimikaki」は来場者の関心を呼びます。各メディアにも取り上げられ、ミミカキの売れ行きが好調となり、キッソオは2014年に負債に喘ぎ次の手を模索していた状態から黒字に転じたのです。

参加者の方たちは、熱心に金谷さんの話を聞いていました。

参加者の方たちは、熱心に金谷さんの話を聞いていました。

事業の拡がりは「土地の人・水の人・風の人が大切」と金谷さんは言います。その土地で働く人(土地の人)とその人たちを支える金融機関の人(水の人)、セメントプロデュースデザインのようにその土地に刺激を与える人(風の人)が合わさって、事業を拡がっていく。これまでの金谷さんの経験から発せられる言葉のひとつひとつに、参加者の人たちも大きく頷いていました。

生産者と購買者のつながりの場づくり

ギフト・ショーの「ACTIVE DESIGN&CRAFT DESIGN」内のコンセプトゾーン、ACTIVE CREATORSのプロデュースを務める金谷さん。

ギフトショーに出展するには企業の大小は関係なく、等しく出展料がかかります。新規参入する企業やクリエイターにとって、出展するための費用も非常に大きな負担となります。かつて自分たちが一番のハードルを感じたのも、出展料だと言います。

通常サイズよりもブースを小さくして出展料を安くすることで、若手のプロダクトデザイナーやファッションディレクター、デザインディレクターなどクリエイターが出展しやすいブース展開の方法を考え進めています。作り手と買い手が繋がる場づくりを手掛けているのです。

その土地でプロデュースできる人材が育つこと

「Sabae mimikaki」のほかにもデザインを通じた地方創生や企画ディレクション、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクトなど、立て直しや育成に携わる金谷さん。

金谷さん自身が特定の地域にずっと携わっていることは現実的に難しくなります。そこで、注目しているのが金融機関にいる方たち。「各地の偏差値を知っているのは、実は金融機関ではないか」と考えています。彼らは、マネタイズ能力が高いことに加えて、その土地の事業者のネットワークも持っています。

現在、各地の金融機関の若手から、地元地域での「コト・モノ・ミチ」をプロデュースできる人材を生み出せるのではないかと仮説を立て、人材育成にも注力をしようとしているのだそう。地元の事業者同士のネットワークをつないでいったり、プロジェクトにかかるコストを計算してまとめていく人材。まさに自分たちがしていることと同じことができる人材だと言います。そのような人材育成もデザインの事業のひとつとして、取引先の信用金庫の若手をインターン生として自社へ迎える話を進めています。

会場には手掛けたプロダクトが展示・販売されている。手前は「切る」と「食べる」の2つの顔を持つウッドプレート「face two face」。

会場には手掛けたプロダクトが展示・販売されている。手前は「切る」と「食べる」の2つの顔を持つウッドプレート「face two face」。

 

デザイナー経験ゼロの状態から立ち上げたデザイン会社は、コト(技術)モノ(意匠)ミチ(販路)を基軸として地方創世を担うまでに拡がりを見せています。アフリカの言葉を例に出して、金谷さんは言います。

「『早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け』。まさに自分たちのつながりはそうだと思うし、今日ここで出会ったみなさんとも繋がっていけたらと思っています」

金谷さんのお話に惹き込まれ、トークの時間はあっという間に過ぎていきました。

参加者の方たちからは、さまざまな質問も出されました。交流会でも、それぞれ方たちの活動の話しをみな熱心に聞いていた、や金谷さんと会話しながら自身のヒントを得ているようでした。

非常に盛り上がり、素敵な金曜日の夜でした。

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この記事を書いた人

伏島恵美

フリーライター。出版社などで校正・校閲とホテルの客室清掃に従事したのち、各種のユニークなイベント運営にも関わる。生き生きとした人の姿を伝える活動をスタート。