トップニュース・レポート「クリエイターと町工場が起こす化学反応」〜アイデアを進化させる製本工場との付き合・・・

2018.11.15
「クリエイターと町工場が起こす化学反応」〜アイデアを進化させる製本工場との付き合い方とは?〜|訪問型セミナーSpeak East vol.12(11/8開催) #イベントレポート

dsc_6460-1
「製本会社ってどんな仕事をしているの?」

もしかするとデザインや創作に関わる人であっても、製本会社の仕事内容を詳しく言える人は多くないのかもしれません。それだけ製本は、裏方の役割を担うことが多かった仕事と言えるでしょう。

東東京で活躍する方々の創業の体験談や、東東京の魅力を聞きに行く訪問型セミナー「Speak East」。今回は、製本業界で注目を集める有限会社篠原紙工にお邪魔しました。

作り手に寄り添い、その想いを引き出して製品に込める──。同社を率いる篠原慶丞さんをゲストに迎えて、これまでの製本屋さんのイメージを覆す存在感を放つ秘訣について、詳しくお聞きしました。

【日時】
2018年11月8日(木) 19:00〜21:00

【会場】
Factory 4F(篠原紙工4階)
東京都江東区大島5-51-13 4F
http://www.s-shiko.co.jp/access/

【ゲスト】
篠原 慶丞 氏(有限会社篠原紙工 代表取締役)

【ファシリテーター】
有園 悦克 氏(株式会社ステージアップ)

【タイムテーブル】
18:30-19:00 会場受付
19:00-20:00 トークセッション
20:00-20:30 グループワーク
20:30- 交流会

会場となったのは、同社工場の4階に2015年にオープンしたイベントスペース「Factory 4F」。「紙加工の広場」をコンセプトにしています。

会場となったのは、同社工場の4階に2015年にオープンしたイベントスペース「Factory 4F」。「紙加工の広場」をコンセプトにしています。

毎年のように造本装丁コンクールで賞を取り続ける同社の秘密を知ろうと、印刷・製本業界に関わる人から、プロダクトデザイナーなどの作り手まで、多くの人が集まりました。

イベントの冒頭で、さまざまなパートナーと製作した実績を紹介した後、篠原さんが社長になるまでの歴史を振り返りました。

早く遊ぶために仕事を効率化するうちに…

創業から40年以上の歴史を持つ同社ですが、10年前まではいわゆる下請けの仕事がほとんど。製品のコンセプトを知るデザイナーと直接話す機会はまったくなく、印刷会社から設定される納期を必死でこなすだけの毎日。「いま印刷が上がったから、取りに来て、明日中に製本して」ということも頻繁にあったそうです。

dsc_6473-1

現社長の篠原さんは、19歳の時に同社に入社。当時は仕事が大嫌いで、モチベーションは「早く仕事を終わらせて遊びたい」という1点のみだったそうです。

いかに仕事を早く終わらせて遊ぶかを考え、機械の扱い方を工夫して、工程を減らし、徹底的に仕事を効率化していったといいます。そんな毎日を送るうちに、いつの間にか周りから「すごいね」と言われるほどの製本ができるようになっていきました。

褒められる経験を重ねるうちに製本の面白さに気付き、「もっといろんな人に喜んでもらいたい」と思うように。「仕事が面白くない」と辞めていく人たちを見て、「こんなに面白い製本が誤解されたままは嫌だ!」と、製本の道に本腰を入れるようになっていきます。

本に角丸を付ける作業では、その見事な仕上がりに見学者からも感嘆の声が。

本に角丸を付ける作業では、その見事な仕上がりに見学者からも感嘆の声が。

「もっと喜んで欲しい」と製本技術を追求するうちに、自然と前例のない特殊な仕事が増え、いつの間にか、これまで縁がなかったデザイナーさん付き合う機会が増えたといいます。

なぜその形が必要なのか、を考える

一方で、同業者からは「デザイナーと仕事をしたいが、なかなか長続きしない」という悩みも耳にしました。その原因のひとつは、「デザイナーが作りたいものを、そのまま受け止めて作ってしまう」ことにあると篠原さんは言います。

例えば「丸い本を作りたい」というデザイナーのニーズに対して「どうやって丸い本ができるか」だけに意識がいってしまう。どうやって、その角度、形状に仕上げるか、だけを見てしまうと、本来の目的を共有できません。

料理人が食べる人のことを想って腕を振るうように、行動を起こす前には必ず目的が必要だと篠原さんは言います。「なぜ丸い本なのか?」「なぜこの角度が必要なのか?」を製本担当者が理解していなければ、やりがいを見出すことができないと言うのです。

製本技術を結集して生まれたジュエリー「IKUE」は多くのメディアに取り上げられた。

製本技術を結集して生まれたジュエリー「IKUE」は多くのメディアに取り上げられた。

だからこそ、篠原さんは言われたものを言われた通りに作るのではなく、「なんでこの仕様書になったのか」を自分が納得できるまで作り手に聞きます。

たとえ、作り手と直接コミュニケーションを取ることが難しい仕事であっても、その想いを想像することはできます。「なぜこの形なんだろう?」「なぜ表紙はこの色なんだろう?」と想像することから、すべての仕事をはじめるそうです。

会社のビジョンを自家製本で共有

「作り手の視点に立つことや、モチベーションを、現場のスタッフとどう共有しているのでしょうか?」

イベント最後に設けられた質問コーナーでも参加者からは、篠原紙工の組織づくりに興味が集まりました。

篠原紙工の社員は現在約20名。週に一度の朝礼以外に、1年に一度、約2時間の面談を持ち、篠原さんの想いを伝えます。極め付けは、毎年のように会社の過去や未来のビジョンを描いた冊子をオリジナルで制作、5年後10年後の会社のあるべき姿を共有しています。

そして、すべての社員に対して同じアプローチをするのではなく、1人ひとりの性格や特性を見極めて、そして、褒めること、怒ることを使い分けていると言います。

FACTORY 4Fでは、製本技術を活かした個性的なアイテムを購入することもできる。

FACTORY 4Fでは、製本技術を活かした個性的なアイテムを購入することもできる。

試作品を作るための古い道具が並ぶ。写真は紙にスジを入れるための機械。

試作品を作るための古い道具が並ぶ。写真は紙にスジを入れるための機械。

篠原さんが社員にやりがいを感じて貰う方法として大きな効果があると感じているのが「工場をオープンな場にする」こと。同社では、今回のイベントのような機会以外にも、積極的に工場見学を受けいれています。

見学者の目がモチベーションに

慣れたスタッフには地味な作業であっても、ふだん製本作業に馴染みがない人にとって大型の機械で印刷紙が裁断するシーンは圧巻。毎回のように「おお!」と感嘆の声が上がります。それがスタッフにとっての大きなやりがいになるのだと言います。実際に入社当時は自分に自信を持てずにいた社員が、今では工場見学者の前で堂々と作業できるまでに成長したケースもあるそうです。

篠原さんの未来の目標は、高校生が進路を選択する際に、「こんなオペレーターになりたい」と思ってもらえるように仕事の価値を向上させること。そのために、量産だけを目的にするのではなく、本という媒体を通して、世の中に新たな価値を提案し続けたいと言います。

グループに分かれて自己紹介。これも新たなつながりが生む「場」の醍醐味。

グループに分かれて自己紹介。これも新たなつながりが生む「場」の醍醐味。

トークセッション後の懇親会も大いに盛り上がりました。

トークセッション後の懇親会も大いに盛り上がりました。

トークセセッションと工場見学のあとは、グループに分かれて自己紹介&感想をシェア。多くの質問が飛び交ったイベント後にも、懇親会で篠原さんを囲んで質問をする姿が多く見られました。

トークセッションで「常に新しい技術にチャレンジしたい、そのためには自分の想いを口に出すこと」と語った篠原さん。まさにその想いに吸い寄せられるように集まったイベント参加者と、新しいつながりを生み出す篠原さんの姿に、熟成しきった技術が新しい可能性へと変わる瞬間を目撃した気分になりました。

今回も、みなさん多くの来場をありがとうございました!

dsc_6558

この記事を書いた人

星野智昭

コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。