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2018.09.22
一人ひとりの「好き」から日常のにぎわいを生み出す「喫茶ランドリー」|訪問型セミナーSpeak East vol.10(9/19開催) #イベントレポート

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墨田区にある築50年以上のビル1階をリノベーションし、2018年1月にオープンした「喫茶ランドリー」。その名の通りランドリーとカフェを併設した業態だけを見れば、時流でもあるミクストユースによる新しいコンセプトを持ったお店の印象を受けます。

しかし、お店の1日を眺めてみるとその印象は大きく変わります。

生まれたばかりの赤ちゃんを抱えたママからご近所のシニアまで、純粋にお茶を楽しむだけでなく、利用者がイベントやワークショップを企画したり、家族で忘年会を開催したりと、それぞれが好きなことで自由な時間を過ごしています。

多様な人が集まり、楽しみを自発的に作り出していくのはなぜなのか?

今回の訪問型セミナーSpeak Eastでは、「1階づくりによるまちづくり」を提唱する株式会社グランドレベルの田中元子さんと、同社のリサーチャーでありディレクターの大西正紀さんに、喫茶ランドリーに込めた想いをお聞きしました。

【日時】
2018年9月19日(金) 19:00〜21:00

【会場】
喫茶ランドリー
東京都墨田区千歳2-6-9 イマケンビル1F
http://kissalaundry.com/map.html

【ゲスト】
田中 元子 氏(株式会社グランドレベル 代表取締役)
大西 正紀 氏(株式会社グランドレベル リサーチャー / ディレクター)

【ファシリテーター】
小林 一雄 氏 (メトロ設計株式会社 代表)

【タイムテーブル】
18:30-19:00 会場受付
19:00-20:25 トークセッション
20:30- 交流会

街に人がいない時代のまちづくりとは?

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会場となった喫茶ランドリーは満員御礼、自営業の方から行政に携わる方まで、幅広い方々が集まりました。

冒頭はファシリテーターを務めるメトロ設計の小林さんが、イッサイガッサイの創業支援内容やその体制について説明。続いて、なぜ喫茶ランドリーという発想に行き着いたのか? 田中さんの実体験を交えてご紹介いただきました。

いま都心部では、耐用年数を迎えた建物の多くが取り壊され、ビルやマンションに置き換わっています。ひと気の少ない街並み、しかし一方でビルに入居するファミリーレストランは、ほぼ満席の状態。田中さんは、そんな街の様子を見て「これってどうなの?」と違和感を覚え、「まちのにぎわいをつくるには、人の姿が街に見えるかどうかが大切」と考えるようになったそうです。

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かつては、建築に関するメディアの制作に携わっていた田中さん。ある時、4000平米の空き地のにぎわい創出を任され、悩んだあげく「アーバンキャンプ」と名付けた都心でのキャンプを企画。予想以上の利用者に楽しんでもらえた一方で、楽しみが尽きないように企画したワークショップや体験イベントは参加者が少なく、楽しみ方を押しつけていたことを反省したと言います。

その経験が「ただサービスを提供するのではく、お客様の能動性を手助けする」という喫茶ランドリーの哲学にも息づいています。

人に振る舞う「第三の趣味」

かつては趣味がなかったと言う田中さんですが、「友達が気軽に遊びにきてくれるように」と、自社オフィスにDIYでバーカウンターをつくりお酒を振る舞っていた時期があります。日々友人たちにお酒を振る舞ううちに、「これを飲んだら喜んでくれるかな?」「どんなふうに喜んでくれるだろう?」と想像するだけで、対価をもらわなくとも充足感・多幸感に包まれるようになったそうです。

生まれて初めて「趣味」と呼べる喜びを感じ、そこから街角で無料のコーヒーを振る舞う活動につながっていきます。読書や映画鑑賞のような自己完結の趣味ではなく、バーベキューなどのように他者と共有する趣味でもない、社会に貢献できる趣味。それを田中さんは「第三の趣味」と呼びます。

一人ひとりが好きなことを起点に街の中で能動性を発揮して、にぎわいが自然に生まれていく。そんなまちの姿に、まちづくりの理想を見出したそうです。

かつてバーカウンターだったテーブルは、地域の人が手作りの品を売るテーブルに

かつてバーカウンターだったテーブルは、地域の人が手作りの品を売るテーブルに

個人の「好き」から生まれるコミュニケーション

無料の振る舞いからにぎわいを生む活動が話題を呼び、屋台づくりのワークショップを依頼されることもしばしば。

無料での振る舞いを考えるワークショップのルールは「自分のやりたいことをする」こと。社会のために、人のために考えるのではなく、まず自分自身が楽しめることが第一。好きなことを素直に屋台のアイデアに活かすことで、個性が表に出て、他の人の興味と交わり円滑なコミュニケーションが生まれていく。

まちづくりやワークショップといった言葉が持つある種の義務感から開放されて、個人から引き出された魅力が、自然な街のにぎわいを形作っていくと言います。

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内装や備品は、オシャレすぎずダサすぎない馴染みやすさに徹底してこだわった

内装や備品は、オシャレすぎずダサすぎない馴染みやすさに徹底してこだわった

あえてオシャレにし過ぎない

ディレクターの大西さんも交えた後半の質問タイムでは、喫茶ランドリーの店内の設計に秘められた工夫も語られました。0歳〜100歳まで誰もが使いやすい空間を作り出すために、あくまで、空間も使う人が使い方を考えたくなるような店内の雰囲気づくりを心がけているそうです。

しかし、ただスペースを提供するだけでなく使う人のイメージを上手に刺激するように、補助的な役割を店内デザインに忍ばせます。さらには、カトラリーなどはオシャレになりすぎないように気をつけて、誰もが馴染みやすいギリギリのラインを狙っているとも言います。

その緻密な計算のおかげで、誰もが入りやすく、使い方を発想しやすい空間ができあがっているのです。

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イベント後に提供された野菜カレーのお米は、お店の利用者の方が実家から取り寄せたもの。地域に溶け込んでいることが伝わります

イベント後に提供された野菜カレーのお米は、お店の利用者の方が実家から取り寄せたもの。地域に溶け込んでいることが伝わります

近年、市民の手によるまちづくりが注目されるようになりました。官民連携による参加型のまちづくりが理想とされる一方で、そもそも行政と市民の関係が成熟していない日本で、一歩目をどう踏み出すのか? その課題に対して、「誰もが気軽に、自分の好きなことをだけを考えて、まちのにぎわいにつなげていく」という喫茶ランドリーの姿に、日本らしいまちづくりの方法を垣間見た気がします。

今回もたくさんのご来場ありがとうございました!

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この記事を書いた人

星野智昭

コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。