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2018.09.14
次の100年につなぐあかりを灯す「まちあかり舎X未来定番研究所」|訪問型セミナーSpeak East vol.9(8/31開催) #イベントレポート

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東東京で活躍する方々の創業の体験談や東東京の魅力をお聞きする訪問型セミナー「Speak East」。毎回話題のスポットを訪問し、オーナーや開業に関わったパートナーの方々からリアルな創業体験をお聞きしています。

9回目を数えるSpeak East、今回訪れた場所は、谷根千の名でも広く親しまれる下町「谷中」。100年近くの歴史を持ち、長らく銅細工職人の工房兼自宅として使われてきた日本家屋をリノベーションした大丸松坂屋百貨店の「未来定番研究所」にお邪魔しました。

お話をお伺いするのは、谷根千を中心に、まちの再生活動を行っている「株式会社まちあかり舎」の代表取締役、水上和磨さんと「未来定番研究所」研究員の安達淳さん。会場となった古民家再生の経緯を中心に、まちあかり舎が考える今後のまち再生のあり方についてお聞きしました。

【日時】
2018年8月31日(金) 19:00〜21:00

【会場】

未来定番研究所
東京都台東区谷中5丁目9-21

https://www.miraiteiban.jp/information/

【ゲスト】
水上 和磨 氏(株式会社まちあかり舎代表取締役/「桜縁荘」管理人)
安達 淳 氏(未来定番研究所 研究員)

【ファシリテーター】
小林一雄 氏 (メトロ設計株式会社代表)

【タイムテーブル】

18:30-19:00 会場受付
19:00-20:25 トークセッション
20:30- 交流会

ぬくもり溢れる“あかり”の下で

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江戸時代にはじまる寺町・門前町の町並みを今に残す台東区谷中。

会場となった「未来定番研究所」の建物は、明治末期に建てられたとされる古い日本家屋です。歴史情緒を感じる建物から漏れ出す “あかり”に吸い寄せられるように、興味深そうに覗き込む通りすがりの人々。

「世代を超えて生きてきた家を、人の営みと共に後世に受け継いでいく」

建物の再生だけでなく、街が生きている証しともいえる“あかり”を残したいと活動を続ける「まちあかり舎」が目指した理想を、うれしそうに会場を覗き込む街の人の姿に、さっそく垣間見た気がします。

未来定番研究所 研究員の安達淳さん(左)と株式会社まちあかり舎代表取締役の水上和磨さん

未来定番研究所 研究員の安達淳さん(左)と株式会社まちあかり舎代表取締役の水上和磨さん

下町の濃いコミュニティがつなぐ縁

ファシリテーターであるメトロ設計の小林さんによるイッサイガッサイの説明に続いて、未来定番研究所の安藤さんから、同研究所の取り組みや設立の経緯、自身の経歴のご紹介がありました。

未来定番研究所は、伝統×革新をコンセプトに、5年先に世の中から必要とされる市場を作りあげるためのマーケティング活動を展開しているほか、東東京の文化資産の価値向上を目指した取り組みにも積極的に参画。上野の商店街などとも連携して取り組みを進めているそうです。

300年もの歴史を持つ大丸百貨店ですが、未来定番研究所は従来の百貨店の枠を超えてさまざまなクリエーターや文化人、大学、地域、NPOが集まり、専門的な知識や情報を共有し合っていることが大きな特徴のひとつ。その立ち上げに奔走した安藤さん自身も、谷根千の「とにかく濃いコミュニティ」に魅了された1人。かつては当地に住み、そこで育んだつながりを辿ることで、この古民家にたどり着いたそうです。

百貨店という母体を持ちながらも、最終的には地元での個人的な縁がきっかけになったことは、つながりの価値が改めて見直されつつある、今を表す象徴的なエピソードではないでしょうか。

未来定番研究所内には、銅細工に使われた道具もそのまま残り、当時の物語を伝えている

未来定番研究所内には、銅細工に使われた道具もそのまま残り、当時の物語を伝えている

建物の物語と大家さんの想いを大切に

2014年、まちあかり舎の代表の水上さんは、学生時代から谷根千の持つ独特の空気感に魅せられ、地元NPOを通じて知った築約100年の古民家を友人と共に改装。「桜縁荘」と名付け、自分たちが住むだけでなく、人が集いつながる場として外に開いた活動を行ってきました。

桜縁荘を通じて人と人がつながり、活力が連鎖していく様子を目の前で見た経験が、モノを中心に考えるのではなく、文化的側面や人と人とのコミュニケーションにフォーカスするまちあかり舎の建物再生の哲学に息づいています。

「新」「旧」を大切に考える研究所にとって森まゆみさん「根津谷中千駄木」は貴重なアーカイブ

「新」「旧」を大切に考える研究所にとって森まゆみさん「根津谷中千駄木」は貴重なアーカイブ

まちあかり舎は、建築のプロ、歴史都市研究のプロ、ファイナンスのプロなど4名が集まりできた組織。大家さんが抱える「建物の直し方が分からない」「建て替えた方が安いと言われた」など、不動産・建築・資金などの実務的な悩みに寄り添い、賃貸借契約・資金面の調整などまで代行。貸主と借主、そして地域までもが豊かになる再生のあり方を探ります。

畳の上に膝を突き合わせて座るのも古民家ならではの醍醐味

畳の上に膝を突き合わせて座るのも古民家ならではの醍醐味

未来定番研究所は、まちあかり舎の第1号案件でした。

改修にあたっては綿密な建物調査を実施。時代ごとの増改築の履歴を細かく紐解いたそうです。

一般的な文化財の修繕にあたっては、明治・大正・昭和といった、ひとつの時代を基準にすることがほとんど。しかし、まちあかり舎のリノベーションは、建物の魅力の本質である物語を伝えるために、基準となる時代を絞ることはしないそうです。過去の話しを紐解くことは、大家さんとの関係を深めることにもつながるといいます。

“あかり”が地域の人の笑顔を照らす

イベントには、まちあかり舎のメンバーでもあり、未来定番研究所のご縁をつないだNPO法人たいとう歴史都市研究会の椎原晶子さんも来場。同氏からは「土地やお金は残せるが、人と人とのつながり、家主とのつながりは残しづらい」といった課題や「建物の物語まで意識することで、過去を知る人と次世代の人のコミュニケーションが自然に起こる」といった効果までご紹介いただきました。

ぬくもりある“あかり”が、人と人をつないでいく

ぬくもりある“あかり”が、人と人をつないでいく

また、以前からこの建物に注目し、谷中で花屋「コトハナム」を営む田村恭子さんは、「いちばん良い人につながった」と喜ぶ住民のひとり。ご縁がつながり、未来定番研究所の床の間のフラワーアレンジメントも担当しています。

「これまでの商売は、足りないものを奪い合う利益優先だった。これからは“足りている”ことが大切にされ、そこから安心・愛・ぬくもりなどが生まれていくと思う」と、まちあかり舎を中心とした今後のまち再生に期待を寄せていました。

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ハンバーガーと飲み物を片手に親睦会も盛り上がります

ハンバーガーと飲み物を片手に親睦会も盛り上がります

参加者の方々にも多くのお言葉をいただいたトークセッションは大盛況のうちに終了。

その後の懇親会では、「レインボーキッチン」のハンバーガーと、谷中にオープンしたばかりのお惣菜屋「タヨリ」のケータリングに舌鼓を打ちながら、参加者同士が歓談。まさに、ぬくもり“あかり”のもとで、新と旧、人と人がつながる有意義な時間がゆっくりと流れていました。

みなさま、今回もたくさんのご参加、誠にありがとうございました!

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この記事を書いた人

星野智昭

コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。