東東京で活躍する方々の仕事現場におもむき、創業の体験談や東東京の魅力をお聞きする訪問型セミナーSpeak East。話題を集める「場」で仕事の雰囲気を感じながら、各オーナーからリアルな創業体験をお聞きしています。
今回のSpeak East vol.7では、月島でセコリ荘を営み、繊維産業の仕組みやテキスタイルの基礎知識を学ぶ「産地の学校」を主宰、最近では日本のテキスタイルのプラットフォームサイトを目指して「TEXTILE JAPAN」をスタートさせた宮浦晋哉さんが登壇。
理系の学生だった宮浦さんが、どのように繊維産地と関わり、デザイナーと産地をつないでいるのかをお聞きしました。
【会場】
セコリギャラリー(中央区月島4-5-14)
http://secorisou.com/
【ゲスト】
宮浦晋哉 氏 (セコリ荘主宰、株式会社糸編代表)
【ファシリテーター】
鈴木淳 氏 (台東デザイナーズビレッジ 村長)
【タイムテーブル】
18:30−19:00 会場受付
19:00−20:00 トークセッション
20:30−21:00 質疑応答
21:00− 交流会
会場となったのは、下町情緒あふれる月島にある築約90年の古民家をリノベーションしたセコリ荘2階のギャラリースペース。昔ながらの急階段を上った部屋の壁面には、各繊維産地のサンプル生地が掛かり、全国の産地でつくられた質の高いテキスタイルを自由に見学できます。
「何をやっているか分からない」と言われることも多いという宮浦さん。その取り組みや今の考えを詳しく聞こうと、アパレルブランドや織物会社などの業界内部の人に加え、純粋に事業として興味があるという人まで、多様な参加者が集まりました。
千葉県松戸市出身の宮浦さんは、芝浦工業大学で2年間学んだ後、杉野服飾大学へ編入。ところが「服は好きだけど、つくるのは好きじゃなかった」ことに気付き、就職活動にも目的を見出せないでいました。
才能あふれる同期生を見て、「彼らのサポート、仕組みづくりに、自分の活躍できる場があるのではないか」と漠然としたビジョンを描き、卒業をきっかけにイギリス唯一のファッションに特化した専門大学であるロンドン・カレッジ・オブ・ファッションへ留学。ファッションコミュニケーションを専攻しながら、ファッションを取り巻く社会の流れを考察、ひたすら英語で情報を発信することを繰り返していたそうです。
ロンドンの有名デザイナーをインタビューした際に出会ったのが、日本の生地。「日本についてもっと知りたい」という想いに至ったタイミングの2012年、世界のファッションブランドに生地を提供し続けてきた東京・八王子の織物メーカー「みやしん株式会社」の廃業を知りました。
日本のモノづくりの衰退を象徴するような出来事にショックを受けた宮浦さんは、帰国後すぐに、同社元代表の宮本英治さんを訪ねました。そこで「全国の産地を回ってごらん」というアドバイスを受け、「産地を勉強しよう」と決心。ギャラリーのバイトで生活費を稼ぎ、夜行バスで移動。漫画喫茶に泊まって、産地の企業を回るという日々を続けました。
その取材内容をまとめ、2013年に自費出版した『Secori Book』が話題となり、繊研新聞や装苑への出稿や講演会の依頼につながっていったそうです。
宮浦さんは、職人やデザイナーとのトークセッションを繰り返す中で産地を取り巻く課題への認識が進み、その課題を解決するための事業を本格化していきます。
生地の産地と、実際に取り扱う職人のコミュニケーションが圧倒的に足りないと感じ、2013年にたどり着いたのが月島の古民家。ここをリノベーションして拠点を構えます。宮浦さんの人柄も相まって、職人やデザイナー、学生など、いろいろな人が集まるようになり、交流の場としての役割を果たすようになります。
その後も探究心は留まることなく、キャンピングカーを借りて数カ月にわたって日本一周をしながら産地を回りはじめます。クラウドファンディングで費用を募り、情報はセコリ百景を通して発信。その経験と知見を頼り、多くのメディアから執筆依頼が舞い込みはじめます。
そうして宮浦さん自身も、デザイナーが求める情報を瞬時に編集して提供する「コンバーター」という役割を自覚していったそうです。地方自治体などが地域のブランディングを考える上でも頼られる存在となり、産地への移住者の支援、地域の課題に対するアドバイスなども手掛けるようになりました。
2015年には、セコリ荘の2号店を石川県金沢市にオープン。北陸三県の生地をピックアップ。多くのデザイナーが訪れるようなり、工場と協業で新しいアイデアから生地をつくる取り組みもスタートさせていきました。
トークセッションの後は、セコリ荘の1階にある食堂「イーーート」で懇親会。普段はおでん屋さんとして人気の同店のシェフが腕によりをかけた、生春巻きやプーパッポンカレーなどの多国籍料理を楽しみます。参加者それぞれの仕事や考えを伝え合う時間となりました。
食堂の明かりに誘われるように、ご近所のおばさまが「元気?」と顔をのぞかせる一幕もありました。産地支援のみならず、しっかりと近隣の地域にまで根ざしたコミュニティとなっている様子が伺えました。
現在、宮浦さんが強いビジョンとともに取り組んでいるのが、冒頭でも触れた「産地の学校」と「TEXTILE JAPAN」。「日本の繊維企業の生地を、もっと海外の人にも知ってほしい」という想いを携えて、「ニーズが分かる問屋」を目指して、メディアの成熟をファーストステップに考えているそうです。
コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。