トップインタビューお店と人をつなぐ 地元を楽しくするデリバリーの形

2020.12.11
お店と人をつなぐ 地元を楽しくするデリバリーの形

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左からエース配達員 佐藤健作さん、「すみデリ」発起人 細田侑さん

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言以降、飲食店は休業要請などもあり大きな打撃を受けました。依然外出を控える人が多いなか、苦労している飲食店のために何かできることはないかという細田さんたちの想いから「すみだローカルフードデリバリー」(通称:すみデリ)がスタートしました。

どのような経緯で立ち上げに至ったか、またなぜ発案から翌日配達開始という驚きのスピード感でスタートすることができたのでしょうか。当時の様子を発起人・細川侑さん、エース配達員・佐藤健作さん、東向島珈琲店マスター・井奈波康貴さんの3人にお話を伺いました。

発案から始動まで1日、やってみたら大反響

すみデリを始めた経緯を教えてください。

細田さん(以下敬称略):
4月の中頃、たまたま東向島珈琲店に来て、自分が毎週土曜日に曳舟駅前で運営する「すみだ青空市ヤッチャバ」というマルシェが中止になったことをマスターに話していました。そこで「何か出来ること、デリバリーなんかやったら面白いね」という会話になり、そこから始まりました。

東向島珈琲店だけではなく、僕が以前からファンだったスパイスカフェという地元で有名なスパイス料理店にもすぐに声をかけに行って、2店舗とも地元個店のデリバリーについて共感してくれたので、そのまま翌日からスタートさせることにしました。

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昨日の今日で!なぜ、こんなに早く実行に移すことができたのでしょうか?

細田:
勢い…ですかね(笑)。
最初は3人でやろうとしてたのですが、SNSで発信したらめちゃくちゃ問い合わせが来て。それで、デリバリー当日の朝に友人たちを電話で呼んだりして、結局6人ぐらいがスタッフとして集まって始めました。

佐藤さん(以下敬称略):
集まった人たちは、自分にできることでコロナ禍で困る人の力になりたいと同じように思っている人が多かったと思います。例えば体力には自信がある人とか、システムを考えるのが得意な人とか、なにかしら出来るものを持っている人に恵まれた。これが早くできた理由じゃないかなと思います。全員が当事者として駆け回った結果、短期間で形にできたと思いますね。

UberEats(ウーバーイーツ)など既存のデリバリーサービスもある中で、なぜデリバリーに挑戦したのですか?

細田:
最初は、UberEatsをもじって「すみだEats」っていう名前で始めたんです。より地元の人たちにとって親しみが湧く名称にしたほうが馴染むのではという話が打合せで出てきて、地域の美味しいものを届けるというローカルフードデリバリーに墨田をつけて、今の名称になりました。
そもそも勢いで始めたし、周囲にはテレワークで体が鈍っている人たちがいたり、飲食店はお客さんが減っていたりというのもあって、そこの助けになる手伝いができたらいいなという気持ちの部分が強かったですね。

佐藤:
一見、他のデリバリーサービスと同じことをやっていますが、本質的に売ってるものが違うんじゃないかなと思います。既存のデリバリーサービスは、決済など手続きのほとんどがアプリで完結するので、関わる人も少なくてすむし、お客様と直接言葉を交わすこともなく配達もできます。一方ですみデリは、地元のものを地元の人たちに届ける、コロナ禍で困っている人を応援するのを目的に、言葉を交わして人の温度感を確かめられるというのが良さだったのではないかなと思っています。

細田:
お代を頂く際も直接現金でのやり取りだったのですが、皆さんポチ袋にメッセージを書いて渡して下さって、とても応援されているなと感じました。

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スタート初日にもかかわらず朝の時点で完売と、開幕の反響は大きかったようですが、どのような方が買って下さったのですか?

細田:
それぞれのお店のファン、常連さんがSNSの発信を見て頼んでくれて。注文は基本的にFacebookページのメッセンジャーから行ってもらう仕組みだったので、それを通して注文していただきました。最初はそれぞれのお店の発信力があって広がっていった形ですね。

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試行錯誤を繰り返してシステムを構築

注文から配達まで、どのようなシステムで運営されたのですか?

細田:
ITは活用するけど結局アナログ作業でしたね(笑)。注文はFacebookページのメッセージで個々にやり取りをして、注文が入るとメンバー間で確認作業をします。金額を計算して各お店に発注の連絡をするなど、オペレーターが常に会話し続けているような状況でした。

最初は多くの注文をいただいたのに配達員がいなくて、2時間遅れとかお届け先の住所を間違えてしまったりと、大変でした。途中から、企業でエンジニアの経験のある人が手伝ってくれるようになり、ハード面とソフト面を常に議論しながら、修正を繰り返してつくりあげていきました。

スタートはやっぱり大変だったのですね。

細田:
順風満帆ではなかったですね。やってみたらニーズがあるというのがわかり、それにどう応えていけるかをみんな一生懸命に模索していました。それで、途中からオペレーターは最低2人、配達員は6人ぐらい必要だよねという話になり、ボランティアの募集もしました。

途中から手数料をいただくシステムに変わったのですね。

細田:
ボランティアなのか、ビジネスとしてやるのかということも考えずに勢いで始めた段階から、気持ちで動いてくれているスタッフにバイト代くらいは渡せたらいいなという考えはありました。それで他のデリバリーサービスを参考に、400円の手数料をいただくシステムにしました。やってみて最初は頂いた手数料から1日1000円を配達員さんにお支払いして配達後の食費などにしていました。

ただ、人数と作業量を考えると全く儲けにはならなくて(苦笑)。色々な人を巻き込みやすくなり、本来やりたいことに集中出来ると思ったので、ビジネスではない違う形だなとシフトしていきました。そのときテレビ局からの取材依頼をいただいたタイミングで、お金の仕組みを聞かれることもあり、改めて議論してすみデリの活動への任意の支援金という形に切り替え、注文時に0円から1,000円まで選べるようにしました。

そうしたら地元のお客さんからの応援もたくさんいただいて。頂いた支援金は、配達員の自転車にスマホを付けるマウントや小銭ケース、雨合羽などの購入に使用させていただきました。

やってみて、苦労したことなどはありますか?

佐藤:
スタートした時期が暑かったし、全部大変でしたよ(笑)。配達先を間違えたというのはあって、お客さんにお待ちいただくということがあったりしました……。
苦労よりやりがいの方が多かったし、毎回スパイスカフェさんが賄いをつくってくださったりして、それも活動の楽しみだったり(笑)。デリバリーのあとに食べると、より美味しく感じるんですよ。50件ぐらい配達し終えて、カレーを食べて、炊飯器を空にして(笑)。部活の合宿に似た雰囲気で楽しんでいましたね。

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細田:
すみデリの完成形であるとか、なにがベストかというのは特に定めていたわけではなかったので、常にメンバーで議論して試行錯誤していましたね。すみデリのサービスは土日のみの活動だったので、週末しか試すことができなかったのですが、システムづくりや反省会などを毎回必ず行い改善も早くできたので、やるたびに活動がよくなっていったのは、やってて面白かったですね。

すみデリで商品提供を行った東向島珈琲店マスター井奈波さんにも話をお伺いします。

今回初めてデリバリーをされたということですが、お店のこだわりはコーヒーだけでなく店内や人の雰囲気などもあるかと思うのですが。決断には抵抗はありましたか?

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井奈波さん(以下敬称略):
やったことがないことでしたし、テイクアウトもすみデリが発足する少し前に始めたばかりで、いきなりデリバリーをすることには少々抵抗もありました。
店内と違って、デリバリーをするとどうしても提供までに人が介在するので、どれぐらいの時間でお客様に届くのかということや、食べるタイミングはお客様次第となると、そういったところは良く考えて、提供するメニューをかなり絞りました。

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東向島珈琲店 マスター 井奈波康貴さん

最終的にやろうと決断された決め手はどこにあったのでしょうか?

井奈波:
同業の仲間と飲食店厳しいよねという話はしていて、結構お互い様子見に行き来するんです。おたくどう?みたいな。そんな時に、侑さんたちのように型に捕らわれず柔軟でしなやかに生きている人たちがふらっと来た時に、今必死になれないでいつ必死になれるんですかねみたいな話になって。

飲食店だけではないですが、本当にコロナってすごい状況で、今必死になれずにいつなるかという気持ちはずっとあったところにすみデリの話になったので、「それならやっちゃおう」と決断に至りました。

ミッションは「お店と地元の人をつなぐ」へ

細田:
続けているうちに毎回頼んでくれるリピーターさんが増え、名前も覚えて配達先まで覚えられるようになってきた一方で、スパイスカフェやヒガムコを知らない人、利用したことがない人からの注文も増え、新しい層の開拓にも繋がっていることに気づきました。

今まで仕事は都心で、地元は単に住んでいただけだった人たちも、コロナ禍で地元の飲食店を利用する機会が増えるなど、ローカルを意識する人が増えたように思えます。そうしたことから、単にデリバリーをするのではなく、実際にお店に足を運んでもらえるような、地元のお店と人を繋ぐことにコンセプトが変化していきました。

佐藤:
昔からすみだにいる人は色々な店を知っていて、地方から上京した人や越してきた人へ地元の情報を教えてくれる人に出会うきっかけがなくて、交流できずにいる人たちもいるわけじゃないですか。そのような人たちをどうキャッチアップできるか、地元を楽しんでもらえるかを考えるようになりました。

すみデリとして、今後の課題や挑戦してみたいことなどはありますか?

細田:
今後は未定ですね。外出自粛期間も終わり今後の活動について議論をしたときに、生まれたつながりは活かしていきたいし、今後も「地元の住民と個人店をつなぐ」というコンセプトでやれることはたくさんあるから、色々やっていきたいねという話はしていました。少しずつ日常が戻り、すみデリのメンバーはそれぞれの仕事もありますし、一旦活動に区切りをつけるのも選択肢の一つであるとも思っています。みんなが忙しくなってきている中でどうしていくか模索しています。

佐藤:
楽しいからやれていたという部分もあるので、義務のようにはしたくないという気持ちはありますね。

これから地域のために何かを始めようとしている人たち、やりたいけどやり方がわからずにいる人たちに向けて、何かアドバイスなどを頂けたらと思います。

井奈波:
まずはやってみる、というのがいいと思いますね。一歩踏み出せば見える世界が変わってくる気がしていて。失敗してもいいじゃないですか。侑さんも輝かしい成果の裏で苦労や失敗があって今がある。成功ばかりじゃないよというのはありますね。

細田:
ゼロからイチをつくるのは大変だとは思いますけど、最初は誰かを手伝ったり、一緒に始めるなどして、そこから人脈やノウハウを溜めてやりたいことをスタートするのもいいと思います。

井奈波:
小さなことから始めてみるのもいいと思うんですよ。コーヒー一杯御馳走することかもしれないし、人を繋げたりすることかもしれないし。何かを始めるきっかけは、そういう些細なところにあるかもしれないと思っています。

飲食店の人とちょっと話すだけでも、始めの一歩になるかもしれません。我々も何かいいことができるんじゃないかっていう思いでいますし、役立ちたいという気持ちは常にあります。気軽に声をかけてみてほしいですね。

墨田区がもっと面白くなったらいいじゃないですか。
自分のまちだし、身近な街だし、楽しい方がいいよねっていう気持ちはみんなどこかに抱いていると思うので。
地元で出来ることの選択肢が多い方がきっと楽しいと思っています。

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取材場所:東向島珈琲店
墨田区がもっと楽しくなればと願い、皆様の輪を紡ぐカフェをコンセプトに運営中
〒131-0032 東京都墨田区東向島1丁目34
http://www.cfc101.com/

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すみだローカルフードデリバリー
「地域のお店と人をつなぎたい」墨田区のお店と有志による地域密着デリバリー。
最近は隅田公園などへキッチンカーも出店中

https://www.facebook.com/sumidadeli/

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スパイスカフェ
本場で学んだスパイス料理を、日本人だからこそできるスパイス料理として表現。約3年半、48カ国の旅を経て、生まれ育った下町の一角にオープン

http://spicecafe.jp/

取材:本庄 真大

写真:伏島 恵美

 

この記事を書いた人

本庄真大

バーテンダー、皮革材料卸売業などを経て現在レザークラフトを楽しむ大人の部活「皮革工芸部」を運営、ワークショップなどを企画するモノづくり大好きおじさん。現在は新型コロナウイルスの影響で活動休止中、中小企業診断士資格取得に向け勉強中。