トップインタビュー「沸き起こるやりたいことに素直に」――副業から始めた瓦割りサービスをきっかけに、・・・

2019.08.23
「沸き起こるやりたいことに素直に」――副業から始めた瓦割りサービスをきっかけに、楽しく暮らす人を増やしたい。

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合同会社ハハハ / 瓦割りカワラナ 
代表 川口民夫(かわぐち たみお)さん

東京の観光名所の一つでもある浅草寺、そこから徒歩数分のところにある瓦割り屋「カワラナ」。ガレージの1階を改装して作られたオープンな空間で瓦割りを通して人々に楽しい体験を提供しています。
「瓦割りカワラナ」は、合同会社ハハハの事業として副業から始めて、今年4期目を迎えます。代表の川口民夫さんに合同会社ハハハをつくった経緯や想いをお伺いしました。

沸き起こるやりたいことを実行していった

創業のきっかけを、お聞かせください。

36歳の誕生日を迎えた時に、これはやばいなと思ったんですよ。20代前半の頃読んでいた志村けんさんの著書「志村流」の中では、自分の人生を72年と考えた時に年齢を1日換算して捉える考え方が書かれていて、36歳がちょうど折り返し地点だと気付いたんです。仕事は順調で仲間もいてそれなりに楽しく暮らしていたけれども、「この先この生活を続けていった時に本当に楽しいと思えるのだろうか?」と自問自答した時に、後半は自分と仲間や家族と楽しく暮らしたいと考えるようになったんです。

僕らの世代はまだ薄くレールが引かれている時代で、いい大学へ出て、いい会社に入り、安定した生活を確保するために先々の準備しながら生きていくのが良いとされていた時代だったと思います。でもこのまま「何もなくてよかったー」と思って一生を終えるのが、よくないなと思ったんですよ。

これまではそれなりに忙しく過ごしてきましたけど、今後の人生においてはちゃんと自分のこととか、自分の仲間や家族が楽しく暮らせるようにしたいと。

創業までの経緯を振り返る川口さん

創業までの経緯を振り返る川口さん

楽しく暮らせるようにするために何かされたことはありますか?

大学卒業して自分のやりたいことに迷った時期がありました。その時、純粋に湧き上がってくるやりたいと思うことを夜な夜な一つずつノートに書き出すことをやっていました。書き出したやりたいことをひとつずつ実行していくことで、今よりは楽しい人生になっていくと思っていた。

また、一人でやっていても盛り上がりに欠けると思ったので、楽しくできないかなと思い、SNSでやりたいことを呟くグループを作り、そこでそれぞれがやりたいことをつぶやき、共感したり一緒に実行したりしていきました。その中の一つに、僕がテレビか何かでたまたま見かけた瓦割りを体験したいと書き込んだら、思いのほか盛り上がり、実際に現場に行ってみることに発展しました。調べると、関東で唯一瓦割りを体験できるのが戸越銀座にあり、その時はみんなで体験して楽しんで終わりました。

やりたいことをつぶやきみんなで実現させていくことを重ねていくうちに、自分が大学卒業したころ「自分の店や会社を持つ」ということを、やりたいことの一つにあげていたことを思い出し、その流れで、会社を作ろうということになりました。

事前にビジョンや計画を作成する以上に、会社を作ろうと行動されたのですね。

そうですね。そこで考えるわけですよ、自分は会社を通して何をしたいんだろうかと。その当時、周りの人が生きるのが楽しくなさそうだったり、苦しんでいる人がいることを感じていて「楽しく暮らす人を増やす」という会社をやろうと決意しました。するとまた楽しくなってきて、今度は社名を決めようとなるわけですが、日本人にも外国人にも通じる楽しさを表す言葉「ハハハ」が良いなと思い、会社名を「ハハハ」と決めました。

社名を思いついたのが7月くらいでしたね。その年はなんと平成28年で、もうすぐ8月8日、「ハハハの日」がやってくると気付くわけです。それを逃すと次は2年後、もうこのタイミングしかないと思い立ち、会社に午前休をもらい8月8日に登記しにいきました。まだやることは決まっていなかったのでとりあえず当てはまりそうなところにチェック入れて登記しましたね(笑)。

スポーツを始める時に、やりたい気持ちもあるけどまず格好から揃えることとかありますよね。ウェア買ったしラケット買ったことで、やらなきゃいけない状況が生まれる。そんな感覚で、まずは会社を作ってしまうほうが僕には合っていると思い立ち上げちゃったんです(笑)。

壁の代わりに積み上げられている瓦、風情があります。

壁の代わりに積み上げられている瓦、風情があります。

 楽しく暮らす人を増やすサービス

なぜ瓦割りのサービスをやることになったのでしょうか

高校時代の友人とお酒を飲んでいる時に、会社を立ち上げたことを意気揚々と報告したんですよ。ところが、想像していた前向きな反応とは逆で「会社を作って一体何をやるの?」と聞かれて。彼にとっては、今の生活で十分だと感じていて、僕が会社を立ち上げて新たな世界に飛び込もうとしていることに対して、とても冷静に質問してきたんです。特に会社の中身が決まっていなかったので、その時はただ漠然と「楽しく暮らす人を増やしたい」と伝えていました。それが、現在の会社へとつながるきっかけになる会話だったと思っています。

そこから友人と最近の楽しかった出来事を話していくうちに、以前瓦割りした体験の話しになり、実はその瓦割りをしている会社が高校時代の同級生がやってるところだと教えられたんです。親の屋根産業を継ぎ、瓦を広めるために瓦割りサービスを行っていたそうで。まさか同級生がやっていたとは知らず、話しを聞いて、瓦割りに縁を感じましたね。そこからは、もうやるしかないと思ったんです。

やると決めてからはトントン拍子に進みました。瓦割り屋をやっていた同級生に直接会い、協力をしてくれることになり、物件も探しあて、自分が瓦割りを体験した約1年後に、「瓦割りカワラナ」をオープンしました。

なぜ、浅草の地を選んだのでしょうか?

カラーのある街に住みたいと思っていたので、浅草に一度住んでみたかったんです。あと、瓦割りって外国人の方に絶対ウケると感じたので。まだその当時は今ほどインバウンドブームが来ていなかったですけど、浅草という場所が合うと思い、お店を構えました。浅草は伝統あることと新しいことが融合しやすい環境だなと思っていて。昔のものを守りつつ、新しい形を生み出せる場所だなと感じています。

人との距離が近い浅草の生活も楽しんでいるという。

人との距離が近い浅草の生活も楽しんでいるという。

創業前に、副業からスタート

お勤めされていた会社を辞めたところから創業されたのですか?

いえ、最初は副業としてスタートしましたね。平日は普通に仕事をしていて、土日「カワラナ」をオープンさせていました。2018年4月にスタートし、当初1ヶ月は正直暇な状態でした(笑)。5月頃に知り合いに取材をしてもらえたのをきっかけにメディア取材が増え始めました。取材のことは予想外でしたが、SNSで瓦割りが広がりテレビの収録やその他取材される機会をいただき、一気に知名度が上がっていきました。

副業を続けるか、独立するかの決め手はどこにありましたか?

その頃僕の唯一の休みは祝日でした。平日も土日も働いていて、このままの働き方では将来的にも体が持たないと感じ始めていたところでした。このままこの状態を続けるか、会社を辞めて「カワラナ」一本に絞るか……答えは自分の中ですでに出ていたように思いますね。挑戦したいなという気持ちの方が強かったです。当時結婚もしていたので、奥さんの了承を得ることも心配でしたが、意外にもすんなり僕のやりたいことに理解してもらえたことはありがたかったですね。
自分の力でお金を稼ぐ力を身につけておかないといけないと思ってましたし、どこかでやっていけるであろうという、なぜか根拠のない自信だけは持っていました(笑)。

外国人受けしそうな和風のイラストが入った看板。

外国人受けしそうな和風のイラストが入った看板。

自分を信じて行動していたのですね。会社を立ち上げてみてどう感じていますか?

世の中のこと全然わかってなかったんだなと思いました。会社員だと担当があるので、一つのパートしかやらないことも多いですし、なんとなく雰囲気で見てわかった気になっていたところがありました。見てるのと実際に自分事としてやってみるのとは全然違っていて、一つひとつの手続きがどのような仕組みで動いているのかとか、世の中のこともわかってなかったし、海外のお客様にもアプローチしようとする中で、日本のこともわかってないと痛感しました。

全て一人で動かれているのでしょうか?

僕一人だと、何にもできないですよ(笑)。その当時一緒に働いていた同僚や、今まで関わりのあった方々にお願いして、必要な書類とか、お店周りの事など手伝っていただきました。本当みんなの協力があって実現できた部分も多いですね。現場も、副業時代は二人いないと回らなくて、仲間に声かけて4時間手伝ってくれたら瓦割り体験券をあげるからと言って手伝ってもらっていましたね。8回手伝ってくれたら名前の札を控え室に掲げるという試みもしていました。

友人とどこかに飲みにいくのもいいけれど、「カワラナ」を手伝ってもらいながら時間を共有して、その場で話をするのもいろいろな人と接点を持てることにもつながるし楽しいかなと。また、サービスを提供する側になることで一緒にお店を作っていく感じになり、手伝ってくれた人がお店を宣伝してくれることにも繋がると思っています。

8回以上手伝うと名前が飾られる。

8回以上手伝うと名前が飾られる。

 目の前にきた機会に反応するか、しないか

「カタナバ」をやるにあたって、縁や非常に良いタイミングがあったんだなと感じました。

やりたいこと一つ一つアクションを取っていくことによって、次の何か新しいことを始めることに繋がっていくんだと実感してきました。

例えば、目の前に電話が鳴っている時に、取るかとらないかの話だと思うんです。かかってきた電話に出てみたら、会話が始まって何か面白い話しが聞けるかもしれない。電話に出ないとなれば、それはそれでその人の選択だということだと思います。訪れた機会にどう自分が反応するかっていうことですよね。また、外へのアプローチとして自分から電話をかけるという行為を忘れないのも大切だと思います。最近は、ありがたいことに各方面から注目いただいていて、自らアプローチしていく時間が確保できていないと思ってはいますが、もし目の前に何か機会がやってきたときは機会を逃さないでおきたいと思ってます。

会社をつくっている人は、身近にはまだそんなにいないのですが、起業するって大それたことのように思われがちなのかなと思っています。だけど、つくることは難しくなくて会社名を登記していくシンプルなものなんですよね。僕みたいに何をやるか決めずに会社をつくる人はあまりいないと思いますが(笑)。やってみて失うことはないと思うんです。やらない方が、さまざまな機会を失っていると思っていて。もし迷っているのであれば、それはやったほういいし、何も思っていないのであればそのままでもいい。僕はたまたまやりたいことの一つに会社をつくるというのがあったので、アクションを起こしてみたという感じですね。行動することで次に繋がると思うのでまずは、ノートに書き出すとかでもいいし、友達に宣言してみるとかでもいい。小さくでも行動を起こすことで、案外簡単に次に繋がる何かが出てくるかもしれない。

今後はどのような展望を考えていらっしゃいますか。

今年5月から居合斬りサービス「居合抜刀カタナバ」を始めました。「カワラナ」の開始から1年経った時に、そろそろ瓦割り以外にも何かできることを考えたいと思っていたところ、「月間秘伝」という雑誌で居合を見つけたんです。居合の体験会に申し込んだ翌週くらいに、剣士として活躍されていた松本さんから、「一緒に何かしないか」と嬉しい連絡をいただいたんです。これもまたすごい偶然で。その後、松本さんと何度か打ち合わせを経て、松本さんがレクチャーする「カタナバ」をスタートしました。現在、平日火曜は「カタナバ」をやり、土日祝日は「カワラナ」を続けています。

今後は、現在行うサービス以外にも「楽しく暮らす人を増やす」ことを何か増やしていきたいですね。一歩踏み出したい人を支援できるような、何かを。そうすると、今より人生が楽しく思える人が増えてくるんじゃないかと思っています。

2019年5月より開始した「居合抜刀カタナバ」の剣士 松本さん。

2019年5月より開始した「居合抜刀カタナバ」の剣士 松本さん。


合同会社ハハハ / 瓦割りカワラナ 
2016年創業。「楽しく暮らす人を増やす」をコンセプトに浅草で瓦割りを体験ができるサービス「瓦割りカワラナ」を営む傍2019年5月より「居合抜刀カタナバ」をオープン。また、コワーキングスペース「浅草コワーキング ハコバナ」や学びや遊びのイベントサービス「浅草アソバナ」「浅草マナバナ」など様々なサービスも展開している。

瓦割り カワラナ
〒110-0032 東京都 台東区 浅草2丁目27-17
http://kawarana.jp/

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取材写真:いしやま なおみ

この記事を書いた人

いしやまなおみ

企画・デザイン・ライター。 モヤモヤしていることをカタチにするお手伝いをしています。不定期で、ただ話を聴くだけのキキヤ(聴き屋)も活動中。 山と風とグリーンカレーと日本酒とお笑いが好き。