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2019.06.05
フットワーク軽く、誰かの困りごとをデザインの力でほぐす! 「かようびデザイン室」の営業ゼロでお仕事が続く秘訣

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かようびデザイン室 代表
青木 佳代さん

デザイナーの青木佳代さんが「かようびデザイン室」を創業したのは2018年4月。前職で12年間携わってきたパッケージや販促物のデザインだけでなく、会社のロゴやパンフレットのデザインまで仕事の幅を拡げています。

「デザインやってます!というよりは、困りごとをなんとかしたい!が近いかな」と謙虚に語る青木さんに、独立に到るまでや、この1年間の変化について伺いました。

自分がしたいことと、それをどんな風にしていたいのか考えた

独立までは、どんなお仕事をされていましたか?

多摩美術大学を出てデザインの仕事をしたかったのですが、大企業ばかり受けては落ちて……。そのとき東東京に目を向けていれば、ソニーやキヤノン以外にもデザインができる会社はいっぱいあったのに、と当時の自分に教えてあげたい(笑)。

2003年にアパレル会社に入って2年半、出荷業務などをしていました。デザインができないだけでなく正直ブラック企業で、社会の厳しさは学びましたね。次にチラシをつくる会社に転職したのですが「出勤は終電で」という昼夜完全逆転の職場。これは人として……と試用期間満了で辞めました。

そこでようやく、自分の気持ちを整理する時間を取ったんです。やっぱり私はデザインがしたいし、お客様と近い関係性でありたい。そう思って見つけたのが、台東区三ノ輪でパッケージやディスプレイ、販促ツールの企画・販売をしている三協という会社でした。お客様と直接やり取りして納品まで全うできましたし、デザインに必須のソフトの使い方から教えてもらえて感謝しています。そこで12年お世話になりました。

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「この子」と呼べる商品を育てる中で育んだ面白い人たちとのご縁

独立を考えるきっかけについて教えてください。

今思うと、三協に入社して5、6年後に「Hako de Kit」という紙箱を自分で組み立てる商品を世に出したことが、独立のきっかけだった気がします。

その頃、二子玉川に「BOX&NEEDLE」という紙箱専門店ができたこともあり、かわいい箱で、しかも組み立てる楽しさを味わえるキットなら売れるかもしれないと感じたんです。これまでデザインしてきた「商品のための箱」ではなく、「商品として売れる箱」をつくってみたいと話すと、会社も開発を認めてくれました。

ただ、それからはすべてが手探り。デザインと製作まではできても、卸専業だった会社には小売りまで手がけた人は誰もいなかった。原価計算から販路の開拓まで、すべて自分の仕事になりました。ギフトショーのブースで展示しても、その場では反応があっても注文が来ない。かなり焦りました。

セロハンテープだけあればきれいな貼り箱がつくれる「Hako de Kit」

セロハンテープだけあればきれいな貼り箱がつくれる「Hako de Kit」

それはつらい……それでも「Hako de Kit」を今も続け、独立を考えられるようになった理由はどんなところにありそうですか?

いつも人のご縁に助けられていたからだと思います。

Hako de Kitが売れなくて「ワークショップで知ってもらうのはどうだろう」と検索をしていたら、台東区で活躍する人の話を聞く「台東スタディーズ」というイベントを見つけました。思い切って参加すると、地域で面白いことをしている人、ものづくりに関わる人たちにたくさん出会えたんです。

そこから、革のまち奥浅草を知る「浅草エーラウンド」や、御徒町・蔵前エリアの「モノマチ」といった地域のモノづくり系イベントを、ボランティアで手伝うようになりました。

イベントや展示会では、個人事業主や1人プロジェクトで頑張る、同士のような存在にも会えます。何度も顔を合わせるうちに別のイベントに呼ばれたり、仲良くなったお店で偶然居合わせた友達の友達から展示会に誘われたり……。そうしているうちにHako de Kitも続けられるようになったし、独立後の自分の姿も、少しずつイメージできるようになりました。

声をかけてもらったとき「まぁやってみよう」と、動けたのがよかったのかな。

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「相談したくなる」「思い出される」という強みが支えになる

独立時に、どんな準備や支援を受けましたか?

退職までの1年間、創業セミナーなどに参加しましたが、補助金などの特別な支援は受けていません。勤めていた会社やパッケージの製造元に今後のことをしっかり話し、「Hako de Kit」の販売継続を認めてもらったり、退職後も製造元に発注できるようにしたりといった、“独立する自分への引き継ぎ”は意識しました。

あと、イベントの手伝いを通して個人事業主や経営者に話を聞く機会が増えたことで、心の準備はできたと思います。

独立後して1年が経ちましたが、営業活動などはどうしてますか?

営業は……していないですね。独立前、ある先輩から「例えば、絵が下手なのにどうしてもイラスト主体のホームページにしたいと思っちゃった人は、できる誰かが引き受けてくれないと困るよね。そういう困っている何人かから相談されたり、相談される前に察せる誰かになれれば、営業しなくても仕事はある」と言われたんです。

そういうもんかな?と半信半疑だったのですが「Hako de Kit」のおかげで「青木=箱の人」、イベントの手伝いを通して「青木=なんでも屋さん」といったイメージを持ってくださる方が増えてきていることは感じていました。デザインから工場への印刷手配、モノづくりもできるし1人いると便利みたいな(笑)。

また、「こんな箱つくりたいんだけど」と相談を受けるなかで、「その悩みの場合は、箱よりロゴのデザインが先かもしれない」みたいに、仕事の幅が自然に広がっていくことは多いです。

2017年開催の第1回文具女子博で「文具女子アワード」を受賞した「おどうぐばこ」。カワイイ!!

2017年開催の第1回文具女子博で「文具女子アワード」を受賞した「おどうぐばこ」。カワイイ!!

東東京で創業する魅力は感じますか?

前職からの取引先が墨田区に多く、紙加工の現場と近いのは魅力です。相談も検品も楽ですし、入居したシェアオフィス「co-lab墨田亀沢」まで紙見本を持ってきてくれることも。ここのco-labは、印刷会社が新規事業として手掛けている場所。紙と印刷が好きだったことと、実際、お仕事を発注するにも印刷の現場が近いので、コミュニケーションが取りやすそうだと思ったので選びました。

独立前の方へアドバイスを一言!

自分が「細かいことまで自分で決められるタイプか」は、見極めたほうがいいと思います。

声をかけていただいた仕事を受けるか受けないか。受けるなら納期から逆算してスケジュールを立て、見積り額を決めて。実際手を動かす前後にたくさん決断しなくてはいけません。

また、細かいことですが開業日は、クライアントから発注書を受け取った日になるそうです。私は開業届に記した開業日の前に、あるクライアントから発注書をいただいていたので、経理の関係で開業1年目は青色ではなく白色申告になってしまいました(笑)。開業日、要注意です!

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かようびデザイン室
2018年創業。「あなたの商品まわりのあれこれ」のお手伝いをデザインでできればと思っています。パッケージやディスプレイなどの販促物のデザイン・製造、ロゴ・パンフレットなどのグラフィックデザインを主にうけたまわっています。

かようびデザイン室の由来は、名前の「かよ」を入れたかったのと、調べてみたら火曜日生まれだったから。父ヒロシが「ヒロシ理容室」を営んでいることも少し。

〒130-0014 東京都墨田区亀沢4丁目21-3 ケイエスビル co-lab墨田亀沢
Hako de Kit:https://aoki90.wixsite.com/hakodekit/

取材写真:樋口トモユキ

この記事を書いた人

岡島梓

フリーライター。周囲の人や町の魅力を言葉で誰かに届け、私のあずかり知らないはじまりを作れたらと思います。明日が少し楽しくなるきっかけの時間「旅する図書館」というサロンをさまざまな場所をお借りして開いています。https://www.facebook.com/travelinglibrary.ultreya/