トップインタビュー「腕利きの職人が、品質と信頼をくれた」──女性のためのレザーバッグブランドCoq・・・

2019.04.03
「腕利きの職人が、品質と信頼をくれた」──女性のためのレザーバッグブランドCoquette流、共創するモノづくり

01
Coquette
デザイナー / 代表取締役
林きょうこ さん

台東区の御徒町エリア。ここは活気あふれる“アメ横”の玄関口である一方、実は古くからかばんや靴といった革製品のものづくりが盛んな街でもあります。そんな御徒町で、革バッグブランド「Coquette(コケット)」を展開しているのが林きょうこさんです。

元会社員の林さんが、ブランドを立ち上げたのは2004年のこと。クリエイターの創業支援施設として、時を同じくして発足した台東デザイナーズビレッジ(以下デザビレ)に1期生として入居するも、同期はすでに商品を生産して売り上げている人ばかり。それまでの実績がなかった林さんは、「私、相当落ちこぼれだな」と感じていたそうです。

しかし、デザビレ卒業後から現在に至るまで着実にブランドを育て続け、15年目を迎える2019年3月には国内有数の老舗デパート「日本橋髙島屋」に2号店をオープン! その活躍は目覚ましいものがあります。

そんな林さんとCoquetteの成長の影には、墨田区や台東区に工場を構える職人たちの存在があると言います。どこかパリの街角を思わせるアトリエショップで、お話を伺いました。

ブランド立ち上げに不可欠だったつくり手との出会い

御徒町に構えるアトリエショップ。店内にはバッグだけでなく、小物や靴など多彩なラインナップの商品が並ぶ

御徒町に構えるアトリエショップ。店内にはバッグだけでなく、小物や靴など多彩なラインナップの商品が並ぶ

林さんは、2004年にCoquetteを立ち上げたそうですね。

そうです。もともと化粧品会社に勤めていて、その頃に趣味でバッグづくりをしていたのですが、それがだんだんと、「自分でブランドをやりたい」と本気で考えるようになっていきました。

当時は経験も知識もなかったけど、「がま口型の口金を使った、こんなバッグをつくろう」「革も金具も、既製品は使わずオリジナルでいこう」と、すでに商品イメージだけは固まっていましたね。

経験・知識ゼロからのスタートとなると、当初は大変だったのでは?

おっしゃる通りです。最初は「すべて自分の手仕事で完成させるバッグブランド」を想像していて、ブランド立ち上げ前に一時期、バッグづくの教室にも通ったんですね。けれど、実際に技術を学んでみると、ひとつの型を起こすだけでも半年かかってしまい、できあがったものも、とても売り物にはならないレベルで……。

そうした逆境はどのように乗り越えたのでしょうか?

自分はデザインや素材探し、加工方法の提案、営業活動などに特化して、“つくる”工程はプロの職人さんにお願いしようと割り切ることにしました。それがブランドを立ち上げ、育てていくために一番いい方法だと思ったからです。

とはいえ、革屋さんも商売ですから、「ひとつの型に付き大きなバッグ10個分」など最少ロットが決まっているケースが多くて。ツテを頼っていくつもの革屋さんに、「まずはサンプル品を」と相談に行ったのですが、すべて断られてしまい、心が折れそうになりました。

そんな時、デザビレの鈴木村長に「墨田キール」という革の加工工場を紹介してもらい、その出会いがターニングポイントになりました。

「腕利きの職人さんとの出会いがターニングポイントだった」と振り返る林さん

「腕利きの職人さんとの出会いがターニングポイントだった」と振り返る林さん

しつこいくらいコミュニケーションを重ねる大切さ

墨田キールは、小ロットの生産にも対応してくれたのですね。

社長さん曰く、私、相当切羽詰まった顔をしていたらしく、「俺たちがやってあげなきゃ」と思ったそうです(苦笑)。それに、つくってくれるだけでなく、三木さんという職人さんの技術力も驚きでした。

職人さんの腕の高さ、詳しく聞きたいです。

私の場合、前職で化粧品の開発に携わっていたこともあり、色味や雰囲気の要望も多かったと思います。「こことここにパールを点在させて、偏光感もちょっと出したくて」と、あれこれお願いしたのですが、三木さんはそれを聞いて「ん、わかった」と。

そして置いてあった牛乳パックのようなものを使ってササッと調色して、革にサーッと吹き付けてくれたのですが、その色が正に私のイメージ通りだったんです。まさか一発でできるとは思ってもいなかったので、あの瞬間は喜びのあまり半泣き状態でした(笑)。

林さんの独創的なデザインを、一流の職人が形にする。そうして他にはないCoquetteの商品が誕生する ©Teruaki Kawakami(been)

林さんの独創的なデザインを、一流の職人が形にする。そうして他にはないCoquetteの商品が誕生する ©Teruaki Kawakami(been)

イメージ上の色を、瞬時に再現できるというのはすごいですね。

使える色材は決まっていますし、ニュアンスもさまざまですから、調色はすごく難しいし、知識やスキルだけでなく感覚の問題も大きい。だからこそ、つくってくれるだけでなく、感覚の合う職人さんに出会えたことに強く感動しましたし、「墨田キールさんにお願いすれば、私がつくりたいものをつくれる」と確信できたのです。

東東京は“宝探し”の街

その出会いを経て、職人さんと協力しながらブランドをつくってきたわけですね。

初めて展示会に出品した時、私はバッグデザイナーとしての実績も、どこかに商品を卸した経験もない状態でした。それでも、革は墨田キールさんと一緒にオリジナルでつくり、縫製もベテランの職人さんが手掛けたサンプル品は、バイヤーさんから「こういう商品がつくれるんだ」「いい品質ですね」と高く評価してもらえて。その場で2社から「うちで扱いたい」と声をかけてもらえました。

その時に、品質は単に商品だけでなく、ブランドに対する「信頼」も生み出してくれているんだと思ったんですよね。

その後も、ブランド立ち上げから1年後くらいかな。懇意にしているバイヤーさんから「林さんのところは商品が本当にきれいだから、安心して注文できる」という声をいただきました。あの時も「私にはない価値を、職人さんが出してくれているんだ。彼らと一緒でないとブランドはできない」と改めて感じました。

昔も今も、東東京ではさまざまな工場や職人さんが活躍していますが、林さんは以前からご存知だったのですか?

実はデザビレに入る前は、「革製品づくり」が東東京の地場産業だとは全然知らなかったんですね。ただバッグで言うと、抜き型屋さんもあれば、抜き型をつくる職人さんもいるし、革屋さんや裏地屋さんもある。

職人さんやメーカーさんだけでなく、できあがったら不織布を売っているお店もあるし、箱屋さんもある。つまり、バッグ製造に必要な周辺産業が全部そろう環境なんです。

地域を回れば、バッグの素材集めから売り物にするまで、全てできてしまうと。

その上、例えば紙業界などもありますし、お仏壇づくりのための箔押しや名入れの職人さんも多い。そんな風に、業種ごとに縦の流れが存在して、根付いているのがこのエリアの面白さなんです。私にとっては、モノづくりのエッセンスになるものと言いますか、「この技術、バッグづくりに使えないかな」という“お宝”がそこかしこにある感じです。

バッグだけでなく、財布などの小物にも多種多彩な職人の技術が活きている

バッグだけでなく、財布などの小物にも多種多彩な職人の技術が活きている

パートナーである職人さんとの関係性づくりで、大事にしていることなどはありますか?

私が言うのも何ですが、「いい商品をつくりたい」という熱意は伝わると思うんです。足しげく通う、顔を見て話す。そうしたことの積み重ねで、きっと共感してもらえるんじゃないでしょうか。それに、私、人一倍しつこいかもしれません(笑)。

しつこい、と言いますと?

調色や加工の手法って、化学的な話が多いんです。この原料とこの原料を混ぜると化学反応でこんな色に変化するとか、濁りが発生するとか。私、そうした話を職人さんとするのが大好きなんです。だから、イメージ通りの結果にならなくても、失敗の理由もちょっとしつこいぐらい聞く。色一つをとっても職人さんと一緒につくっていく感覚で、「ここを変えたらどうなりますか?」と改善策を提案しながら進めていきます。

その繰り返しでイメージ通りの成果が生まれることもあれば、運よく面白いものができて「これにしようと」なるケースもあります。その時は“今じゃないな”と思えたものが2年後に「あの時のアレが時代に合うかも」と活きる場合もある。それも、高い技術力を持った職人さんたちと商品をつくっていく面白さですね。

目指しているのは、2世代3世代をつなぐバッグ

林さんが、バッグデザイナーとしてのこだわりや、大事にしているコンセプトもぜひ教えてください。

革製品って他の生地に比べて、寿命が長いんですよね。パリのアンティークショップとか、蚤の市へ行くと、100年前の革のバッグが平気で置いてあったりします。ですから、Coquetteのバッグもお客様に長く愛されるような商品でありたいなと。

デザインする際は、「こんな方に買ってほしい」という特定の顧客層などはイメージしているのでしょうか?

年齢層はあまり問わないですが、「人とは違ったものを持ちたい」と考える大人の女性が多いです。さまざまなファッションを一通り楽しんだ上で、自分なりに“良いもの”の基準を持ち、既製品でもハイブランドでもなく、自分だけのバッグを探している方。Coquetteのバッグはそんな方が持った時に、全体のファッションがピリッと際立つようなデザインを心がけています。

それに日常的に使うアイテムだから、使い勝手も欠かせません。最初は「かわいい」で選ばれたとしても、購入後に「使いやすいな」と感じてもらえたら、満足感がさらに深まりますよね。だからこそ、バッグを生産する職人さんの技術力が商品の価値につながるんですよね。

今年3月からは、日本橋髙島屋に「3世代をつなぎ、受け継がれていくように」という想いを込めたバッグが並ぶ

今年3月からは、日本橋髙島屋に「3世代をつなぎ、受け継がれていくように」という想いを込めたバッグが並ぶ

今年3月には日本橋の髙島屋さんにCoquette2号店をオープンされたそうですね。

以前からバイヤーさんに目をかけていただき、ポップアップストアや企画商品の開発などを一緒にやってきました。その上で今回、「他にはないCoquetteのテイストや雰囲気を、デパートに取り入れたい」と声をかけてもらったんです。

歴史ある百貨店ということで、新しいお客さんとの出会いもありそうです。

そう、日本橋髙島屋と言えば“老舗中の老舗”で、それこそ東京の文化をつくってきたデパートですよね。それに以前、ポップアップで出店した時に、ご家族でいらしている方がとても多くて。おばあちゃん、お母さん、お孫さんが一緒に1日を過ごしている、そんな場所なんだと感じたんです。それがとても印象的で……。

お話しをいただいた時に、そういうデパートだからこそ出店しようと決めました。

そうした方々に、今後どんなバッグを届けたいとお考えですか?

長く愛用できて、たとえ壊れちゃったとしても、手元に残しておきたい。修理して使いたい。そんな、日常に寄り沿い続けていく商品を提供できたらと思っています。

それに例えば、結婚式やパーティに持っていくオケージョンバッグなどがわかりやすいですが、バッグには“使った時の思い出”も詰まっていると思うんですね。そうした思い出と一緒にお母さんから娘さんへ、おばあちゃんからお孫さんへと受け継がれていくような、「世代を超えてつながるバッグ」をつくっていきたいですね。

08
Coquette
使う人のそばにそっと寄り添い、共に人生を歩む。持つ人がキラキラと気持ちが華やぎ、そのときの装いが記憶のひとつとなって、再び手にした瞬間に思い出が蘇る。Coquetteのバッグは女性の装いの一部となり、全ての女性の心強い味方でありたいと願っています。

Coquetteのバッグは全て日本製。職人ならではの繊細な技術と温かさ、そしてデザイナー林きょうこのデザインを形にする力が一緒になることで、世界中の女性たちの心に響くバッグが誕生します。

http://www.coquette.jp/
アトリエショップ:東京都台東区東上野1-11-5
Coquette 髙島屋 日本橋店:東京都中央区日本橋2-4-1 日本橋髙島屋S.C.本館1階

取材写真:樋口トモユキ

この記事を書いた人

太田将吾

ライター/コピーライター。これまで求人・採用などキャリアデザイン関連が中心だったが、最近はテーマがライフデザインに拡大。ユニークな企業・団体・人との出会いが増え、「趣味=取材」の公私混同系ライターとしては楽しい毎日。