トップインタビュー「ビジョンに合う働き方を求めていい」ママ起業家から、すべてのママに伝えたいこと

2018.09.12
「ビジョンに合う働き方を求めていい」ママ起業家から、すべてのママに伝えたいこと

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Tomorrow and Everyday(トゥモローアンドエブリデイ)
代表取締役 染谷江里さん

育児と仕事、どちらも両立するための“正解”は、1つではありません。

勤めていた会社に復帰してもいいし、ママが働きやすい制度の整っている会社に転職してもいい。もちろん、起業するのも1つの手だと思います。すべてのママが、自分のキャリアビジョンに合う働き方を見つけていけるといいですね。

足立区西新井で、子ども用のヘアアクセサリーを企画・販売しているTomorrow and Everyday(トゥモローアンドエブリデイ、以下T&E)の染谷江里さんは、もともと不動産会社に勤めていました。会社に復帰せず、創業することを決めたのは、出産してからわずか数カ月後のこと。最も慌ただしい時期に創業を決めたのはなぜでしょうか? 育児と事業を両立してきた5年間の経験を、染谷さんにお聞きしました。

雑誌掲載が創業のきっかけに

子ども用のヘアアクセサリーを作り始めたきっかけを教えてください。

出産後の仕事のあり方について考えていたとき、ふと思いついて、娘のために作ったヘアアクセサリーを出版社に提案してみたんです。そうしたら、トントン拍子に雑誌掲載が決まったんですね。最初は、個人事業主としてヘアアクセサリーの販売を始めようと考えていましたが、出版社の方から「法人でなければ取り引きできません」と言われてしまって……。諦めるのももったいないので、会社の立ち上げを決めたんです。

モノづくりで創業しようと思ったのはなぜでしょうか?

母が昔からアクセサリーを作る仕事をしていて、作業する姿を見てきたのが大きかったですね。どういうフローで仕事を進めればいいか、どのくらいの期間で完成するかを、なんとなく知っていたんです。デザインを起こし、内職さんに作ってもらって、梱包して納める。そういう形なら事業として回していけるという、漠然とした自信がありました。

リボンのついたヘアバンドを出版社に持ち込んだことが創業のきっかけになった

リボンのついたヘアバンドを出版社に持ち込んだことが創業のきっかけになった

出産後、勤めていた会社に戻ろうとは考えませんでしたか?

もともと不動産会社の法人営業部で働いていて、資料作成などで夜遅くまで残業するような生活をしていました。入社当初から、いずれはトップに立って、部下を束ねていくという希望を持っていたんです。だから出産後も、勤めていた不動産会社に復帰しようと考えていました。ところが、娘をすんなり保育園に入れることができなくて……。

今振り返ると、復帰に関しては、保育園に入れないということ以外でも、仕事の面でモヤモヤを抱えていた部分があった気がします。勤めていた会社は、2012年当時も出産後に復職する女性が多く、とても働きやすい環境でした。でも、自分らしい働き方ができるかどうか、フルコミットできないもどかしさを感じていたんですよね。創業は、育児をしながらバリバリ働きたい、私のビジョンに合っていました。

「出産後もバリバリ働きたかった」と話す染谷さん

「出産後もバリバリ働きたかった」と話す染谷さん

次々と降りかかる課題、走りながら解決策を模索

創業後、最も苦労したのは?

在庫のコントロールの難しさとブランドとしての認知度アップですね。

ヘアアクセサリーは、季節商品なんです。ベロアなど厚めの生地は、夏になると売れません。逆に、薄くて涼しげな生地だと、冬場は売れないんですよね。欠品してもいけないし、在庫が残ってしまうなら売り切る方法を考えなければいけない。

無料でネットショップを作ることができるサービスが出始めたころだったので、見よう見まねで写真を撮り、ネット上で販売を始めました。生地探しもパターンも梱包も、もちろん広報も1人でやらなければいけないので、一時期は、何から手をつければいいかわからなくなるほど混乱しましたね。

当時、すでにアトリエを構えていたのでしょうか?

最初の頃は自宅で作業していましたが、事業としてしっかり回していきたいと思ったので、途中からマンションの一室を借りて、そこを作業場にしました。でもそうすると、固定費が発生するので、売り上げを伸ばさなければいけませんよね。何かアクションを起こすたびに、すべきことが増えていきました(笑)。

子ども用のヘアクリップもすべてママのハンドメイド

子ども用のヘアクリップもすべてママのハンドメイド

課題にぶつかるたびに、一つひとつ解決していったんですね。お金まわりで苦労はしませんでしたか?

2016〜17年の2年間は、とても苦労しました。創業から数年経ち、自己資金で事業を継続することに限界を感じていたんです。悩んでいたとき、母親が以前から付き合いのあった信用金庫の担当者さんとお話する機会があったんですよ。「今なら創業5年未満なので、足立区の創業資金融資を受けられますよ」と言われて、200万円借り入れしました。資金繰りが大事だということに、そのとき初めて気付きましたね。

その後、有名フォトスタジオとのコラボの話が決まり、スタイ(よだれかけ)を3万枚作ることになったんです。製造工場をネットで探し、交渉した結果、希望の値段で作ってもらえることになりました。ところが、支払いが前金で……。工場からは「翌月払いでいいよ」と言ってもらえたんですけど、それでも赤字だったんですよ。

どうやって乗り越えたのでしょう?

再び信金の担当さんに相談したところ、日本政策金融公庫の創業融資の借り入れができると教えてもらいました。結果的に、300万円借り入れすることができ、なんとかしのぐことができたんです。事業を続けるには、勢いも大事だけど、順番も大事。昨年までの2年間は、ヒリヒリと神経をすり減らすような毎日を送っていました。

「一昨年、昨年の2年間はヒリヒリするような毎日を送っていました」(染谷さん)

「一昨年、昨年の2年間はヒリヒリするような毎日を送っていました」(染谷さん)

工房と提携して大量生産を実現

商品の生産体制はどうしているんですか?

もともとは、近所のママ友を介して、足立区のママに内職を依頼していました。ところが足立区のママは、子どもが小学校に上がるとパートに出てしまう方も多いんですよ。作り手がコロコロ変わると、品質の低下につながりかねないので、長く働いてくれる人を足立区以外でも探すことにしたんです。

まずは依頼の仕組みを変えなければと思い、材料をキットにしてまとめ、郵送でやりとりすることにしました。ヘアアクセサリーは小さくて軽いので、コストは数百円で済みます。そのやり方が功を奏したのか、千葉とか埼玉とか神奈川などで、内職をしてくれる方が増えてきたんです。

千葉県山武市に提携縫製工房があるそうですが、そちらと提携したのはなぜですか?

以前から内職をしてくださっていた方が、周りのママたちを紹介してくれて、山武市に内職さんがどんどん増えていったんです。山武市には、時間の融通のきく仕事が少なくて、しかも子どもが3〜4人いるのが当たり前なので、ママが外に出て働くのがなかなか難しいそうです。そういった理由もあって、積極的に内職をしてくださる方がすごく多かったんですね。

「それならいっそ、山武市に工房を構えたらいいんじゃない?」という話になり、T&Eの理念を理解してくれる内職ママの1人に取りまとめをお願いして、提携縫製工房を設立することになりました。

サンプルとオリジナル商品の製作は足立区にある自社アトリエで行っている

サンプルとオリジナル商品の製作は足立区にある自社アトリエで行っている

創業時に人の話を聞いて損はない

創業5年目を迎えましたが、モチベーションはどのように保っていますか?

子育てと家事と仕事を全部こなそうとすると、消耗してしまうので、1日の平均点が70点ならOKと考えるようにしています。仕事が90点なら、その日の家事は50点でもいい。中途半端というと聞こえが悪いですが、完璧を目指して自分を追い込まないようにしていますね。

今後、ヘアアクセサリー以外に、商品を増やしていく予定はありますか?

ヘアアクセサリーとおそろいにできる、セミオーダーのワンピースの販売を考えています。襟のデザインを変えたり、胸元のデザインを変えたりできるなど、選ぶ楽しみを味わっていただきたいですね。大人用の型紙を用意すれば、ママとおそろいもかないます。

事業と共に育ててきた娘さんと。彼女が着ているのがセミオーダーワンピースの試作品。今後、さまざまなパターンを用意する予定だそう

事業と共に育ててきた娘さんと。彼女が着ているのがセミオーダーワンピースの試作品。今後、さまざまなパターンを用意する予定だそう

今後、創業を目指す方に向けて、アドバイスがあれば教えてください。

創業スクールに行ったり、経営に関する本を読んだりするのもいいと思いますが、生きた情報を得ることが、何より役に立つと思います。創業した友だちが周りにいれば、「こうやったけど失敗しちゃった」とか「こうしたらもっと良くなった」という意見をどんどん聞いてみてください。特に育児をしながら起業したい場合は、同じような経験をしたママに話を聞いてみるといいですね。

私は、創業した友だちが周りにいなかったので、会社員時代に付き合いのあった社長さんなどにアポイントを取り、話を聞きに行きました。創業時は、効率よく動くことを重視しがちですが、人の話を聞く時間を取って損はないと思いますよ。

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Tomorrow and Everyday(トゥモローアンドエブリデイ)
2014年、T&E JAPAN株式会社設立。すべて国産のハンドメイド、かつホルマリン検査をクリアした安全な子ども用のヘアアクセサリーをメインに商品を展開。「ママと子どもの笑顔の瞬間が増えること」をビジョンに掲げ、ママが自分のペースで働きやすい仕組みづくりを模索している。

〒123-0841
東京都足立区西新井1-32-11-104
http://www.tomorrowandeveryday.com/

(写真:樋口トモユキ)

この記事を書いた人

佐藤由衣

下町住まい7年目の雑食系ライター。仕事人の情熱を適切な言葉に落とし込み、必要としている人に届けることをめざし、トヨタOPEN ROAD PROJECTやコーヒーマシンのサイトにてコラム記事を執筆中。