Lille og Stor Studio (リレ オ ストア スタジオ) / デザイナー
吉金 淳さん
2013年に設立したデザインスタジオ「Lille og Stor(リレオストア)」は、「コドモトオトナヲカンガエル」をコンセプトに、小物を中心とした革製品を企画・製作しています。
デザイナーの吉金淳さんは、企業勤めをしながら独自にものづくりを追求し、北欧留学や特注家具でのデザイン経験を経て独立に至りました。吉金さんが大きな影響を受けたという留学時代、そしてどのように現在の事業に至ったのか? 独立して感じていることとは? 拠点を構える台東区入谷のシェアアトリエ「reboot」でお話しを伺いました。
初めて見た方は、読めないですよね(笑)。「リレオストア」と読むんですが、デンマーク語で「小さいと大きい」という意味です。事業名はデザインスタジオというスタイルでやっていきたかったので「Lille og Stor Studio」に、展開するブランド名を「Lille og Stor」としています。
インテリアを意識した革小物を中心に、商品企画から製作、販売まで一貫して手掛けています。
卸先は主に雑貨店が多いですが、個人で運営されている方や、アパレル関係のお店にも置いていただいてます。最近では建築設計の会社からもお声掛けいただき、宿泊施設の什器やハンガーラック、小物などのデザインから製作、そして施工まで関わりました。
革の面白さは「柔軟性」にあると思います。布のような紙のような、非常によく曲がるところ。経年による変化も楽しめます。こうした素材の特性を活かしたデザインを心がけています。全体の統一感を出すために、牛のヌメ革を使用しています。
しなやかで丈夫な素材なんです。女性の持つカバンでよくあるような、柔らかく形が変化しやすいものではなく、ほどよく張りがあって、だんだんと馴染んでいくような革ですね。
「市場に(自分が)欲しいものがないから」というのがきっかけでしたね。「もうちょっとこうならないかな」とか「こうあればいいのに」と自分なりに納得いくものとなかなか出会えなかったからなんです。
例えばお財布であれば、見た目がシンプルで小さくて使いやすいものとか。欲しいと思うものを探していく中で、学生時代に趣味でカードケースを作ったのが始まりでした。
もともとは、自動車メーカーでエンジニアとして勤めていました。ただ、家具とか雑貨に関心があり、特に北欧の家具が見たいという思いがあったので、生活や文化を知るため2011年から1年程デンマークに留学をしたんです。
帰国後は、独立することも視野に入れて東京に出てきました。特注家具やキッチン、棚を製作する家具メーカーに勤めて経験を積みました。学生時代から趣味でレザークラフトをしていたのもあったので、空間の中に革小物がある光景を思い浮かべ、自分の手を動かして作りあげることができる革小物製作に取り組んだという形です。
オリジナルブランドとしてのデザインを考えながら働く日々でしたが、そんな中、自分たちの作るモノがどういった反応をされるのかが気になり、クラフトフェアに出店して販売を開始しました。家具のデザインもしたかったのですが、多くの資金が必要になるので、その前にしっかりと自分の名前を売り出せる実績がないといけないと思ったんです。
私が一番刺激を受けたのは、教育環境そのものでした。デンマーク留学によって、今の事業につながる発想力が養われたと思っています。
私は「フォルケホイスコーレ」という、国籍・年齢・学歴問わず誰でも入れる全寮制の学校で1年過ごしました。デザインの専門学校ではなく、文学、語学、音楽、環境、哲学、スポーツなど教科は多岐にわたります。政府の支援が手厚いので非常に安く生活をすることができ、授業は大学のように選択制です。30か国以上の人たちと3食を共にし、授業も一緒に受けていく生活をしていました。
メモを取ったり、先生が一方的に学生に伝えるようなスタイルではなく、ディスカッションが中心の授業は新鮮でした。例えば、1枚の絵画を見てどう感じるかを議論したり、それぞれの国の人たちが、どんなものを食べているのかを知って討論したり。国によって異なる視点があることを、身を持って実感しました。先生も議題に対して歴史的背景などは教えてくれますが、それ以外はどんな議論でも否定はしない。押し付けている感じもなく、みんなが一緒に学んでいるような教育環境があったんです。
北欧文化を丸ごと体験していく中で、具体的な技術論よりも、その大元となる発想力を高めていく機会が多かった。留学での教育スタイルを目の当たりにしたことで、「家具や雑貨を通し、互いが育まれる環境づくりがしたい」と思うようになりました。
そうですね。同じく留学生の1人だった現在のパートナーが、デザインや雑貨に興味があり、近い将来雑貨店を経営したいという思いがあることを知って、私と考え方が似ているところもあり意気投合しました。
帰国後、パートナーはウェブ雑貨店を立ち上げました。お互いの仕事のサポートをしつつ、パートナーの情報収集力や発想力を生かしながら、2人でブランドを立ち上げていきました。
現在は1人で製作をしていますが、デザインを中心に手掛けるのが理想で、製作は外注する形になっていくと思っています。
私たちのブランドは、素材を限定した製作にこだわるということではないので、いろいろな人たちの力を借りて作り上げていくようになっていくのではないかと思っています。今は作業する場所としてシェアアトリエにいますが、今後は製品を見てもらえる環境を整えていきたいとも思っています。
卸す件数も増えてきている中で、全て自分で作るのか、注文いただいた分にすぐ対応できる体制にしていくのかを考えていきたいと思っています。
(会社員時代に比べて)自由が利くし、人との関わりも圧倒的に多くなりますね。
自動車メーカーに勤めていたときは会社規模が大きいからこそ、分業化して効率的に作業していました。働き方として会社のほんの一部の作業をしている形なので、自分の担当業務だけこなしていれば、周りは意識しなくても仕事ができるような体制になっています。
でも、今は一部ではなくて1から10までをやっている。全てが自己責任になるというのが、かえって気楽。自分が失敗したら、自分のせいであると納得もできるし、一緒に仕事をする人を自分の考えで選択していくこともできる。今の状態は、私にとってはしっくりきていて、独立してよかったなと思っています。
独立して予算的な問題もありましたし、製作ができてそれ以外にかかる雑務を極力しなくてもよい環境を求めていたのもあったので、非常にありがたい環境だと思っています。他業種の方たちが集まっているアトリエなので、何かあればなんでもできちゃうなって思えるくらい、個性的な人たちと出会えるので刺激になっています。
そうですね。当初は雑貨メインで行こうと思っていたので、アパレルとこんなに関わるとは思っていませんでした。続けていくうちに、財布やカバンはアパレルにも引き合いあるんだな、と知ることができました。
モノづくり系のイベントにも、積極的に出展しています。「面白いことやってますね」と言ってくださる方との出会いによって、仕事が生まれたり。出展者同士の横のつながりも強いですね。お互いに製品を買い合ったり、「こんな感じのもの作れませんか?」と相談し合ったり。こうしたつながりから、仕事になっていくことも多いです。
素材が多い街なので、作ることを考えると非常に魅力的です。実際に素材や金型の調達には浅草に行きますし、道具類を実際に手に取って購入するときには浅草橋、蔵前といったところへ出向きます。今やっている事業にはマッチしたエリアだと思っています。
私の場合は、最初から留学するつもりで動き、そのあと独立するつもりで行動をしてきました。やろうと思って動いてきたからこそ、今の状況は必然だと思っているところもあります。
でも、例え「こうしよう」というイメージが定まっていなくても、動けば反応は必ずあります。
気になっていた人を訪ねてみるとか、まずはそれだけでもいいと思います。行動したことで得られる情報は多いはずです。
自分が動けば、やっただけ見てくれている人はいると思っていますし、反応はあります。そんなことを心に留めながら、まず行動してみたらいいのではないかと思います。
写真:イシバシトシハル
フリーライター。新卒で大手鉄道会社に入社し、営業や開発部門を経験。2017年より“働く人が生き生きとできる、背中を押せることをしたい”とフリーライターとして活動を始める。記事執筆のほか、地域や人を応援できる場づくりも行っている。