スタジオスルメ代表 / デザイナー
菊池 光義さん
「噛めば噛むほど味が出るような、そんなモノやサービスをデザインしたい」。そんな理念を掲げて活動するのが、新御徒町にオフィスを構えるデザイン事務所「スタジオスルメ」の菊池光義さんです。
「洗練されたカッコよさよりも、親しみが持てるようなデザインが性に合うんです」と笑う菊池さん。創業当初は埼玉県川口市に事務所を構えたそうですが、2013年「台東区デザイナーズビレッジ」に入居したことをきっかけに、東東京に活動の場を移転。その結果、「事業やデザインのあり方も大きく変わりました」と言います。
菊池さんが地域から受けた影響とは? 清潔感と柔らかな風合いが印象的なオフィスで、お話しを伺いました。
デザイン事務所って、もっとカッコいい屋号が多いですよね(笑)。でも、そういうのは僕らの性に合ってないな、ちょっと芋っぽくて親しみを持てる名前がいいなと思いまして、「スタジオスルメ」にしました。
基本的に、クライアントからの相談を受けてデザインワークを行っています。
ただ、僕らはクライアントの大小やデザインのジャンルは特に意識していなくてですね。「こんなことがやりたい」「これに困っている」という要望や課題に対して、デザインで解決策への道筋を一緒につくっていくことを生業にしています。
そういうケースが増えていますね。たとえば「会社の知名度が低い」のであれば、「見せ方を変えましょう」とウェブサイトやカタログの制作を提案したり。「商品が売れなくなっている」ということであれば、「商品づくりの技術は活かしつつ、ターゲットの年齢層を変えた新商品を展開しませんか」と提案したり。
僕らにとっても、クライアントと二人三脚で企画から考えていくようなやり方が一番いいものを生み出せるのかなと感じています。
もともと僕はデザイン学校のインテリア学科卒で、創業当初は「プロダクトデザイナー」という肩書で、家具・家電・生活雑貨などのプロダクト中心にスタートしました。けれど、活動するにつれてカタログやパンフレットなどのグラフィックデザインや、ロゴ、名刺のデザインなどをする機会も増えてきまして。
最近は商品のパッケージデザインや店舗の内装デザイン、Webデザインなども手掛けています。なので、最近はシンプルに「デザイナー」と名乗るようになりましたね。
僕は「思い立ったら即行動」というタイプでして、同級生だった現在の妻や友人を誘って、学校卒業と同時に独立したんですね。彼らとも「3年間やってご飯が食べられなかったら、改めて就職活動すればいい」と話していたくらいで、創業当時は事業計画もまともにつくっていませんでした。
そうです、お金もまったくなかったですね(笑)。まずは事務所を構えようと、「家賃もほどほどで交通の便もいい場所はどこだろう?」と考え、縁もゆかりもなかったのですが、埼玉の川口に自宅兼事務所を設けました。ただ当初はまったく仕事がなかったので、「そもそも自分たちのことを知ってもらわないと仕事って入ってこないな」と考えまして。
最初の1年は、とにかくもう時給のいいアルバイトを色々やって、お金を貯めて、そのお金と空いた時間を活用して自分たちなりのアイデアでプロダクトのプロトタイプなどをつくって……というのを繰り返し、さまざまな展示会への出展を目指していました。それも、できれば賞を取れるようなイベントに出展して実績をつくる。これが成長への早道だと思っていました。
いま思えば、きっと無駄も多かったと思います。けれど創業2年目には「Interior Lifestyle TOKYO 2013」という国際見本市に出展して、「ヤングデザイナーアワード」をいただけました。周りは有名デザイナーの方や長く活動している方ばかりで、正直「これは厳しいな」と思っていたのですが、審査員の方が過去の実績以上にデザインのユニークさを重視してくださって。この受賞はひとつのターニングポイントになりました。
これをきっかけに徐々に仕事が増えていきましたし、ドイツで開催された「Ambiente2014」という展示会にも招待されて、貴重な体験や出会いに恵まれました。
それと、同時期にもうひとつのターニングポイントを迎えまして。それが「台東デザイナーズビレッジ」に入居して、活動の場を東東京に移したことでした。
仕事の仕方や人との関わり方など、かなり影響を受けました。
たとえば、デザビレの鈴木村長には事業計画の立て方を教わり、自分たちのやりたいことは何か、どういった人・企業に、どうPRするのか。助言をもらいながら改めて整理したおかげで、「クライアントと一緒に考える、が性に合っているな」ということや、それがデザイン+αの付加価値になるといった気付きを得ました。
そのタイミングで過去の実績をまとめたパンフレットも制作して、提案の場では、どういった依頼からどのようなデザインに落とし込んだのかというストーリーを含めて紹介することで、「こういうことに困ったら、スタジオスルメに相談してみよう」とイメージしてもらえるように工夫しました。
その結果、以前は「これを作ってください」という依頼が大半だったのが、今では「うちで使っている○○という素材を活用したんだけど」「こういうことで困っていてね」といった、もう少しざっくりした依頼内容から始まるようになり、デザインするジャンルも広がっていきましたね。
たくさんあります。実はドイツの展示会の際に、向こうで日本人参加者が集まるイベントがありまして。そこに、台東区の「木本硝子」の木本誠一さんや、墨田区の「マルサ斉藤ゴム」の斉藤靖之さんといった、この近辺の中小企業の方がたくさんいらしていたんです。そこで、「今度デザビレに入居するんです」というお話をしたら、偶然にも木本さんの会社がデザビレから徒歩数分の場所らしく、それをきっかけにすっかり親しくしてもらいました。
本当ですよね。日本に戻ってきた後も、木本さんや斉藤さんがいろいろな人を紹介してくれて、親子ほど年の離れた方とも“同じ地域の仲間”としてつながっていくのがとにかく嬉しかったです。
最近は地域のワークショップの運営や、地元の皆さんのフットサルサークルや山登りサークルにも参加しているんですよ。
「飲み会やイベントは誘われたら、断らずに全部参加する」というのは、決めていました。
まだまだお金に余裕があったわけではないんですが、くだらない世間話とか昔のアルバイト体験談とか色々盛り上がるうちに、仕事の話になることも多く、「じゃあ○○については菊池君に相談しよう」と言っていただくこともしばしば。それに勉強になることもたくさんありましたからね。
たとえば、中小企業診断士の方から東京都や台東区で実施されている助成金の制度を教わり、クライアントへの提案に活用したことがあります。それに皆さんがどのように事業を広げてきたのかといったことも、積極的に聞くようにしています。こうした生きた情報はビジネス書にも載っていませんから、本当にありがたいです。
ちなみに2016年にデザビレを卒業して、新御徒町の現事務所に移転したのですが、このオフィスも地域の方から「空いている物件があるんだけど、どう? 」と紹介してもらいました(笑)。
いま取り組んでいるのは、クライアントと一緒にブランドやサービスを立ち上げ、育てていくことです。
お客さんはウェディングアルバムの製作を手掛けている企業や、お墓用の石材などを扱っている商社などさまざまですが、共通しているのは、少しずつ市場が縮小傾向にあること。そうした課題を乗り越えられるようなブランドをつくっていけたらと思っています。
僕らはデザイン事務所ですが、たとえいい商品やサービスができても「売り方が分からない」というクライアントも多いんでしょうし、「デザインしてお終い」では無責任だと思うんです。創業当時から、「自分たちのデザインが役立つこと、誰かに喜んでもらうこと」が根本にあるので、販路のつくり方やPRの方法なども含めて、総合的にブランドづくりに関わっていけると自分たちもより満足できるし、もっと役に立てるんじゃないかと思っています。
商品単体のデザインや、新しいブランドやサービスの企画からプランニングまで、様々な側面からものづくりをお手伝いしています。また、企画からデザイン、市場での販売方法まで積極的に提案し、数年先も数十年後もずっと販売し続けてゆける、 噛めば噛むほど味の出るような、モノやサービスを生み出すことを目指して私たちは日々活動しています。
〒111-0056 東京都台東区小島2-17-10 メゾン新御徒町202号室
http://studio-surume.com/
取材写真:イシバシトシハル
ライター/コピーライター。これまで求人・採用などキャリアデザイン関連が中心だったが、最近はテーマがライフデザインに拡大。ユニークな企業・団体・人との出会いが増え、「趣味=取材」の公私混同系ライターとしては楽しい毎日。