葛飾会議
(写真左から)森谷 哲さん、葛西 優香さん、尾上 由野さん
『寅さん』や『こち亀』の舞台になるなど、東東京のなかでも特に下町のイメージが強い葛飾区。北は亀有や金町、南は新小岩まで、荒川と江戸川に挟まれるように南北に広く伸びる区域は、それぞれの街に特色はあるものの、これまで相互の関わりは薄かったと言います。
この葛飾区で、「すんでるまちを、せまくする」というコンセプトのもと、人と人とをつなげてシナジーを創出し、街を盛り上げていこうと生まれたのが、今回取材した「葛飾会議」です。
2016年のスタート以来、市民同士、あるいは行政と民間など、さまざまなコラボレーションのきっかけをつくり出してきた同会議。クラウドファンディングで2000万円以上を集めて商品化を実現したリュックなど、実際のビジネスにもつながっています。
発起人であり、現在も運営の中心を担う3人に、そのなりたちや現在の活動内容についてお聞きしました。
森谷さん メインは月一度開催する定例会議です。いろいろな人が地域に関するテーマを持ち寄り、出席者全員でブレインストーミングや議論を重ね、アイデアやヒントを募ります。
「地元の社会人サッカーチームを盛り上げたい」「新しいビジネスを葛飾区ではじめたい」など、毎回登壇者が発表するテーマはさまざまです。「遊休物件の活用」をテーマにした先日の会議はとても人気でした。
必ずしもその場で結論を出すのではなく、登壇者が何かひとつでも新しい気付きを持って帰ってもらえたり、新しいつながりが生まれたりすれば良いなと思っています。
尾上さん もともとは、地元のコミュニティFMでディレクターをしていた葛西さんと、地元ウェブメディアに携わっていた私のつながりなどを使って、「地元の面白い人、個性のとがった人を集めよう」と招待制のような形ではじめました。
そのうち学生から60代まで幅広い人が集まってきて、今では葛飾のまちに関わる人であれば誰でもウェルカムという感じになっています。
森谷さん テーマが毎回違いますし、自分に興味があるものだけ参加できるので、参加のしやすさはあると思います。これまでに約170人の人がメンバーとして参加してくれています。
尾上さん 大小いろいろのコラボがあるのですが、たとえば起業して間もないこだわりの酒屋さん。「地域となかなか関われていない」という悩みを抱えていました。
そこで、葛飾会議に登壇してもらい、地元の老舗のお団子屋さんとつながって、和菓子と日本酒の食べ比べ・飲み比べのイベントが実現しました。地元の人たちも喜んでくれて、イベント後に正式にビジネスとして2社の取り引きがスタートしました。まちの資源を新しい形で提供できましたし、ビジネスとしても形になった例ですね。
森谷さん クラウドファンディングで2000万円以上の賛同を集めた撥水リュックの誕生も葛飾会議がきっかけでした。
元々はカバンの卸などをしていた方が、素材加工を得意とする会社さんと葛飾会議で出会い、商品企画がスタート。その想いに葛飾会議のメンバーも触発されて、3〜4人が同じバッグを持っています(笑)。
葛西さん 登壇者に限らず、参加されている方の刺激にもなっているようで、当初は「ヨガ教室の事業をもっと大きくしたい」と思って参加されたママさんで、毎回参加しているうちに自分のやりたいことを見つけて、新たに資格を取得、最近創業された方もいるんです。
尾上さん 葛飾区の選挙管理委員会が投票率を上げたい、という悩みもありましたね。ビジネスに限定されると、参加した人にとって他人ごとになりやすいので、登壇者には少しでも地元に絡めたテーマを設定してもらうようにお願いしています。共感度が上がってみんなで考えられるほうが、議論が盛り上がるんですよね。
森谷さん ビジネスだけではなくて、一番大事なことはお互いのメリットが噛み合うことだと思います。その結果として、地域の盛り上がりにつながれば良いなと思います。つながり合える点が増えていくことで、自然に線や面が増えていくんだと思います。
尾上さん 東京理科大学が葛飾キャンパスを新設してから間もなく、当時の学園祭の実行委員長が「もっと町の人たちに学園祭にきてほしい」という想いを持って、葛飾会議に登壇してくれました。
最終的には行政も巻き込み、理科大の校舎にプロジェクションマッピングを投影するという大きなプロジェクトになりました。その実績もあって、年度が変わってもその後輩たちが参加してくれているんです。
森谷さん 僕は地元が葛飾区で、今は亀有に住んでいます。ウェブサイトやゲーム制作に携わってきましたが、最近では子供向けのプログラミング教育に力を入れていて、「地域の子どもたちにいろいろな経験をさせてあげたいな」という想いがあります。
僕自身、葛飾会議でいろいろな職能の方とつながり、学童イベントでの講師役をお願いしたり、地域の会社さんに餅つきイベントを開催してもらったりしています。葛飾会議で出会った仲間が地域のイベントに出店することも多いので、休日に家族で出かける楽しみも増えましたね。
葛西さん 私は阪神淡路大震災など身近で大災害を経験して、いざという時に人と人がつながり合えることが大切だと考えるようになりました。
防災の視点で、行政と自治会、若い世代をつなげられたらと思い、葛飾会議でその想いを伝えました。それがきっかけとなって、「Ema-Ima」という地域の防災拠点の設立につながりました。これからも、葛飾会議という場を活かして、行政と区民とを防災というチャネルでつないでいきたいですね。
尾上さん 私は愛媛出身で、葛飾に住んで8年になります。近くに仲間や友人がいることの良さを痛感しています。今ではおかげさまで友達も増えましたが、同じように葛飾区に転入してきた人の「住み心地」や「根無し草感」を解消できたらと思い、場づくりに興味が湧きはじめました。
葛飾会議で空き家オーナーや空き家を使いたい人とつながるうちに、空き家再生の可能性にも気付き、場づくりを含めて空き家再生をきちんとビジネスとして考え始めています。
尾上さん 葛飾に住んでいても、優秀で面白い人がいっぱいいるんです。いろいろな職能を持ち、高い意識を持っている人がたくさんいる。必ずしも港区エリアなど都心部に優秀な人材が集まっているというわけでもないんだなと、住んでみてわかりました(笑)。
葛西さん 確かにそうですね。私も葛飾に来てから、魅力的な人にいっぱい会いました。地域に誇りを持っていて、「東東京だってやれるんだ」という人が多いですよね。
そして、その人たちは、いったんやる気を出して始めると、その勢いがすごい! 西東京には負けないぞ!という感じで(笑)、いっきにものすごく伸びるんです。
森谷さん 「義理と人情」という言葉もあるように、元々すごくつながりを大事にする地域だと思います。その点では、人と人のつながりを求める人にとっては、とてもなじみやすい地域であるかもしれません。
葛飾会議では多様性を大事にしていて、毎回会議の場所も変えています。どんどん集まってくる人も多様になってきていますし、何かしら悩みや課題を抱えた人に対して「葛飾会議に行ってみれば良いよ」と言ってもらえることが理想です。
そして、そのつながりから、さらに新しい何かが生まれればうれしいですね。
コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。