株式会社YILU
代表取締役
伊藤 薫さん
愛用の黄色い自転車で東東京をめぐり、海外の旅行者を中心に地域の魅力を伝える伊藤薫さん。2016年5月に株式会社YILU(イールー)を立ち上げ、旅行者と地域の人をつなげることで、互いの暮らしを充実させる気付きを得たり、未来の可能性を拡げられる機会をつくっています。
今回は、清澄白河の事務所にお邪魔し、創業へとつながる多彩な経験や、創業後の東東京との関わりについて伺いました。
「TreckTreck(トレックトレック)」という名称で、旅行ツアーを提供しています。旅を通じてインスピレーションを得られるような、体験のプラニングが主業務です。地域の文化や歴史、ユニークな人や企業の取り組みを紹介し、それを体験できるプログラムを実施しています。本所・深川エリアに拠点を置き、東東京を中心に取り組んでいます。
新卒で入ったリクルートでは、クーポンマガジン「ホットペッパー」の地方拠点立ち上げを担当しました。最初の配属が徳島市だったのですが、明石海峡大橋の開通した直後で神戸や大阪まで楽にアクセスできるようになり、街中は閑散。そんな中、地道に街の飲食店を回り、何度も店主の方と話しながら、なんとかホットペッパー徳島版の創刊に漕ぎ着けました。
すると、街の人が地元の飲食店を知ってくれるようになり、まっとうに努力する良店が繁盛するようになりました。徐々に街中に活気が生まれていったんです。街の魅力や楽しみ方を地元の方に伝える──これが自分の天職だと思いました。
実は28歳頃まで、英語どころかパスポートも持っていなくて。部署異動で新規事業の担当になり、海外のIT企業情報を英語で収集する仕事になったのがキッカケです。海外出張しては、自分の至らなさに悔しい思いをする日々を過ごしました。
そうして苦労しながらも、ターゲットを英語圏に広げることでビジネスの可能性が格段に広がることを実感。日本国内に留まらず世界とつながる仕事がしたい、そう思いました。
そうですね。そこでは主にも日系メーカーの広告・販売促進のお仕事をしました。
現地で実績を上げる企業は、現地の暮らしをつぶさに観察していました。その経験から、私は地域に入り込んで、そこで生活するユーザーに向けて、製品やサービスを提供する側の声を伝えたい。作り手の考えや技術、さらには製品を生み出している土地の良さを伝えることで、価格一辺倒ではない消費の選択肢を増やしたい。そう思うようになりました。
その後、ロフトワークという会社に転職。「MORE THAN プロジェクト」という、日本の商材やサービスを海外へ届けたい中小企業とプロデュースチームの活動を支援する経済産業省の事業に参画して、その思いは強まりました。一方で、もっと街や街で働く人、暮らす人の近くで仕事をしたいという気持ちも強くなり、独立を決めたのです。
今は、訪日外国人数は年間2000万人を越えて、約6割がリピーター、約9割が日本再来訪を希望しています。単なる観光に終わらず、旅行者と滞在先の地域の方が知り合うことで、双方に新しい発見が生まれ、さらには互いのビジネスにもつながるような接点が持てないかと考え、体験ツアーを企画しました。
当初は企画内容が定まらず、集客できないことも多かったです。そもそも私が街を知らないのではと、図書館にこもって地域の歴史を学び直したところ、深川を中心とした東東京は、江戸時代から地元の人と移住民が混じり合うことで、新たなミックスカルチャーが育まれてきた土地なんだと分かりました。
今ではコーヒーやアートの街として知られていますが、もともとお祭りが盛んで、老舗が多くて、相撲部屋があって、と不思議な街。いろいろなモノやコトを受け入れる土壌は、昔からあった訳です。富岡八幡宮でのお祭りやお相撲をはじめとした一大歓楽地であり、商人がいて、工業が盛んで、亀戸周辺には近郊農地もあって、本当に多様な人々が共存していた。
たくさんの地域の方に出会い、私自身が街に根付く「ミックスカルチャー」を味わえたのかもしれません。体験ツアーも、「旅人とユニークな地元の人をつなげること(Connect with the Neighbors)」に主軸を置くことにしました。
とはいえ、最初は「外国人の対応は無理だよ」と消極的なお店の方も多かったんです。
それでも、私が日々、外国の方を連れて自転車で街中の皆さんのお店を駆け回っているうちに、店主自ら英語を勉強したり、ツアーの最中に「うちも見ていきなよ」と声をかけてくださる方が現れたりと、少しずつ変化が起きています。
街の方々が、海外の旅人を前向きに温かく受け入れてくださるようになってきたのは、本当にうれしいことです。さらに進んで、海外の旅人と地元の人の協働が生まれてくると、もっと楽しいことが起きると思いませんか?
東東京で創業してよかったなと思うのが、周囲に自営業の方が多く、相談しやすいことですね。みなさん、ビジネス感覚を持ち合わせたプロフェッショナルなので、話し合いも楽しいし、心強いアドバイスをもらっています。決裁権者が多く、プロジェクトにスピード感が生まれるのも魅力的です。
フリーライター。周囲の人や町の魅力を言葉で誰かに届け、私のあずかり知らないはじまりを作れたらと思います。明日が少し楽しくなるきっかけの時間「旅する図書館」というサロンをさまざまな場所をお借りして開いています。https://www.facebook.com/travelinglibrary.ultreya/