トップインタビュー「作業に逃げてしまう状態」から抜け出したかった私が、クリエイター起業塾で得たもの

2017.12.20
「作業に逃げてしまう状態」から抜け出したかった私が、クリエイター起業塾で得たもの

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仕立てと仕立て直しのブランド
MAISON DE COUTURE KONOMI
河野 恋美さん

2017年の夏に初開催された「クリエイター起業塾」。台東デザイナーズビレッジの鈴木村長が講師を務めたこの塾には、ファッション・雑貨などモノづくり系のクリエイター13人が集まり、ひと夏かけてブランドの育て方や発信の仕方を学びました。

仕立て服と仕立て直しのブランド「MAISON DE COUTURE KONOMI」(メゾン・ド・クチュール・コノミ)のオーナーである河野恋美さんも、受講生の1人。今回は、河野さんがアトリエを構えるKFCクリエイティブスタジオ(墨田区両国)を訪れ、クリエイター起業塾に通うことを決めたきっかけや、受講後の感想についてお聞きしました。

大切な想い出の残る洋服をよみがえらせる仕事

まずは、河野さんの経歴を教えていただけますか。

出身は、バンタンデザイン研究所のパターンモデリスト研究科です。パターンナーという技術職を目指して学んでいましたが、ファッションから離れたいという気持ちが強くなってしまって……。卒業後、しばらくファッションとは関係のない仕事をした後、販売職からリスタートしました。

販売職からクリエイターに転向するまでにはどのような出来事が?

販売職をしながら、やっぱり作ることもしたいと感じていたんです。

モヤモヤしていた頃に、友人から「デザインフェスタに一緒に出店しよう」と誘われました。遊びのつもりで犬の服を作って販売したところ、買ってくださった方がいて、とてもうれしかったんです。その時に、ファッションに関わるなら、自分でデザインして型紙を引いて縫製して、お渡しするところまで一貫してやりたいと思いました。

そういう洋服の作り方をしたいならオーダーメイドを仕事にしようと思いつき、販売の仕事を辞めて、赤坂にあるオーダーメイドとリメイクのサロンに勤め始めたんです。

KFCクリエイティブスタジオ内にある「MAISON DE COUTURE KONOMI」のアトリエ。大きな窓からはスカイツリーが見える

KFCクリエイティブスタジオ内にある「MAISON DE COUTURE KONOMI」のアトリエ。大きな窓からはスカイツリーが見える

なぜ赤坂のサロンを選んだのでしょうか?

サロンの経営方針や仕事内容に惹かれたからです。そのサロンは、オーダーメイドはもちろんですが、90年代後半からのリメイクブームの火付け役になるほどリメイクに定評のあるお店でした。

ハイブランドの洋服や毛皮のコートなどを、デザインバランスを壊さずに全体的にワンサイズ小さくするなど、丸ごと仕立て直すことができる技術がありました。時代が変わって古くなってしまった洋服も、仕立て直せば新しい気持ちで着られるという発見があり、多くのことを学びました。

サロンにはどんなお客様が?

お母さまのウエディングドレスをリメイクして、ご自分の結婚式で着たいという方もいらっしゃいましたし、亡くなった親御さんの服を自分用にリメイクしたいという方もいらっしゃいました。リメイクの価格は、決して安いものではないんです。そのため、時間と手間をかけてでもお直ししたい、想いの詰まった服をお預かりすることが多かったです。

オーダメイドもリメイクも、ひと針ひと針丁寧に縫い進めていく

オーダメイドもリメイクも、ひと針ひと針丁寧に縫い進めていく

リメイクは緊張しないですか? 生地を断ってしまったら最後ですが……。

例え全く同じ洋服を見つけられたとしても、お客様の想い出が染み込んでいるのはその1着だけなので、とても緊張します。でも、手を動かさなければ技術も身に付きません。

赤坂のサロンに勤めていた頃は「ファッションの神様がいて、いま自分ができるレベルの仕事しか手元には来ない」とよく言われていました。「挽回できる技術が身に付いた時に失敗するチャンスをもらえる」とも。自分のブランドを立ち上げてからも、これらの言葉をよく思い出しています。

「お客さまの大切な洋服を解体するときは、とても緊張します」と話す河野さん

「お客さまの大切な洋服を解体するときは、とても緊張します」と話す河野さん

「手を動かしていれば安心」な状態から抜け出したかった

サロンでの勤務を経て、仕立て服と仕立て直しのブランド「メゾン・ド・クチュール・コノミ」を立ち上げたんですね。今回、クリエイター起業塾に通おうと思ったきっかけは?

ブランドを立ち上げてから、常に手探り状態という不安がありました。クリエイター起業塾の講師である鈴木村長が「クリエイターは作業に逃げちゃう」とよく仰っていましたが、まさに“手を動かしていれば安心”という状態で……。

けれども、今後のことについて考えたり、準備をしたりということが、全くできていないという実感があったんです。仕立てやリメイクの魅力をお客様に伝える方法とか、事業の進め方について自分で考えて行動する力を身に付けたくて、起業塾に通うことにしました。

起業塾に通ってみてどうでしたか?

今回は座学だけでなく、受講生同士でフィードバックをし合う「ワーク」の時間が多く設けられていました。同じ立場のクリエイターに意見をもらうことで、気付きがたくさんありました。

また、鈴木村長が、受講生のために労力を使ってくださっている姿を間近で見られたことは、励みになりました。毎回ぶつけられる課題に、村長の気持ちを上回る熱量で応えたいと努力した結果、鍛えられたと感じます。

全5回の講義では、毎回、ノートやワークシートが文字でいっぱいに!

全5回の講義では、毎回、ノートやワークシートが文字でいっぱいに!

今後の展望について教えてください。

仕立て服で、お客様に自分だけのスタイルを身に付けてほしいのはもちろんですが、お直しの魅力も伝えていきたいです。

もう着られないと思っていた洋服も、多くはよみがえらせることができます。ワンシーズンで着捨てることよりも、お気に入りの洋服だけでも手をかけて、長く着る楽しさを味わってほしい。お客様がその服との想い出を紡いでいけるように、色々なお直しの提案をしていきたいです。

ジャケットのデザインを活かして作った帽子とポーチ。着古した服が小物に変身することも

ジャケットのデザインを活かして作った帽子とポーチ。着古した服が小物に変身することも

起業塾で出会った仲間の意見は信頼できる

今後起業塾に通いたいと考えている人に対して、おすすめのポイントを教えてください。

同じ立場のクリエイターから本気で意見をもらえるのは大きいです。いい意見も悪い意見も、ここでもらった言葉は、すべて信頼できると思いました。受講生のみんなとは、起業塾が終わってからも交流が続いていますし、これからも関係を続けていきたいです。

東東京で創業するメリットはどこにあると思いますか?

製造の場が近いのがメリットだと思います。KFCクリエイティブスタジオにもアパレルのスタートアップが複数入っていますが、染めや縫製などを墨田区内で賄っていることも多いです。

東東京では、モノづくりをする人たちがチームになっていて、何かあったときに助け合える機会が多い気がします。クリエイターのアトリエも多いし、個人でやっていても1人じゃないと思える安心感があるのもいいところですね。

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MAISON DE COUTURE KONOMI(メゾン・ド・クチュール・コノミ)
自分だけの美しさを引き出し、自分らしいスタイルを確立する。そんな洋服をオーダーメイドで仕立てるサロン。オーダーメイドの技術を駆使して、大切な想い出の残る洋服を構造から仕立て直し、もう一度着られるリメイクも承っている。
〒130-0015 東京都墨田区横網1-6-1 国際ファッションセンタービル10F studio.8
https://www.mdck.jp/

(写真:吉田 貴洋)

【12/26締切!】デザビレ村長のクリエイター起業塾 第2期

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申し込みフォームはこちらから デザビレ村長のクリエイター起業塾 第2期 *締切12/26

東東京で創業者を育てるネットワーク Eastside Goodside(イッサイガッサイ)東東京モノづくりHUBは「デザビレ村長のクリエイター起業塾 第2期」を開講いたします。

主としてファッション、雑貨などモノづくり系クリエイターや、小規模メーカー向けに「事業やブランドを成長させる」方法を考えていくワークショップです。基本的には主要テーマ毎に、個人ワーク→グループワーク→講義によるまとめを繰り返していきます。一方的な講演ではなく、自分自身に向き合い、グループで考えていくプロセスを通じて、自分に合った成長法則を見つけ、実際に仕事で役立てていくことを目指しています。

従来デザビレの入居者だけに対応してきた鈴木村長が、外部のクリエイターや創業者を指導する貴重な機会です。ぜひ受講をご検討ください。

この記事を書いた人

佐藤由衣

下町住まい7年目の雑食系ライター。仕事人の情熱を適切な言葉に落とし込み、必要としている人に届けることをめざし、トヨタOPEN ROAD PROJECTやコーヒーマシンのサイトにてコラム記事を執筆中。