みちくさアートラボ 代表
椎名 恵叶さん
近年、アクセサリーや雑貨のハンドメイドがひとつのムーブメントになっています。ウェブサイトやスマホアプリで自分の作品を発表・販売するクリエイターも増えており、モノづくりの手法を学べるワークショップも増えて続けています。
特にハンドメイドファンに人気を博しているのが、2011年に浅草橋駅近くにオープンした、モノづくりカフェ『みちくさアートラボ』です。100種類以上を誇るワークショップメニューは、「簡単」「楽しく」「オリジナル」が特徴で、しかも全て1回完結。入会金なども一切不要で、2時間の講座に参加すれば、手芸初挑戦の人も、自分だけの作品を完成できる手軽さが大きな魅力です。
そんなみちくさアートラボが、ファンに選ばれる人気店へと成長できた理由とは? 2009年に同店を創業した椎名恵叶さんにお話しを伺いました。
ワークショップメニューは、アクセサリー作りなどのハンドメイドやクラフトを中心に現在100種類ほどあります。ただ、毎月の営業日数にも限りがありますから、その中でも人気の20〜30講座を手掛けている形です。
そうですね、メニューは基本的に私が考えています。ただ、私は「これがどうしてもやりたい!」というこだわりが特別ないタイプなので(笑)。まったくゼロから想像するというよりは、お客様からお話を伺って、その声を集めながら皆さんの「やりたい!」を形にしていく感じです。
一番人気はUVレジンを使ったアクセサリー作りですね。
レジンという素材は、紫外線で硬化する透明の樹脂なんですけども。それを使って写真を加工したブローチをつくったり、ドライフラワーを加工したり、プラ版に絵を描いたり。様々な種類のアクセサリーや雑貨を作ることができるので、お客様の「次はこれをやってみたい」という声に応えるうちに、いつの間にかUVレジン関連のメニューだけでも20種類くらいに増えているんですよ。
そうですね、お客様に喜ばれたこと、褒められたことはもっとやる。それがすべての判断基準です。ハンドメイド限定というわけでもないので、「カフェメニューのスコーンの作り方を知りたい」「お店づくりの方法を教えてほしい」という声に応えて誕生した講座もあります。
お客様それぞれのご要望に合わせて気軽に参加していただきたいので、ワークショップは全て2時間制の1回完結にしています。もちろん入会金などもありません。こうした特徴は創業当時から変わらないですね。
もともとこのラボを始める時に、まず参考にしたビジネスモデルが、先ほどお話しに上がった“カルチャーセンター”だったんですね。
新聞の折り込みチラシなどを見ていると、多種多彩なコースが100種類ほど掲載されていて、魅力的に感じる。だけど、決して右肩上がりのビジネスではないですよね。で、何を変えたらいいんだろう? と。
そうです。ひとつ一つ検討する中で、特に気になったのが「最初の入会金が煩わしいな」「定期的に通う月謝型の仕組みも、今の人に受け入れらないかも」という点です。そこで、入会金なし&1回完結のワークショップにしようと決めて、今に至っています。
いえいえ。実はハンドメイドは全然得意じゃなかったんです。ただ、独立前にウェブデザインやグラフィックデザインの仕事をしていたこともあって、パソコンを使ったデザインスキルはありました。それに写真を撮ることも好きだったので、当初は写真をデザイン加工して、かわいいフレームをつけたUVレジンのアクセサリーの受注販売サービスを検討していました。
ただ実際やってみると、「自分で作ってみたい」という声が多くて。であれば、私が作って差し上げるよりも、自分で作れるようにレクチャーする方が、事業として広がるんじゃないかなと方向転換をしたのです。
今はデザイナー時代とは違ったやりがいも多くて、お客様から「こんなことができるようになるなんて! 」と驚きや喜びの声をいただけると、本当にうれしいですね。
いえ、どちらかというと、「あまり準備し過ぎない方がいい」というのが私の考えです。
「失敗しないように」と勉強し過ぎるよりも、すぐ動くべきだと思います。準備が足りない状況でも始められるようなスタートラインに立って、小さく動けばいい。
私も最初は、出来るだけ固定費がかからないように、新橋のレンタル会議室から始めました。ダメだったらいつでも辞められるように初期投資を抑えて、3カ月ごとにワークショップの成果をひとつ一つ見直して、「やるべきかどうか」を判断してきました。
前進し続けるという点では、「続けていける仕組み」づくりもずっと考えてきました。これはカフェや雑貨屋さんなどもそうだと思いますが、お店を始めると、つい営業時間を長くしてしまう傾向がありますよね。
私も当初は、自分がいられる限り営業時間を伸ばしたり、一見のお客様もフラっと参加できるようにしたりしていました。でも、そうすると体力的にも精神的にもツラくなるんですよね。これでは働き続けていくのは難しくなります。
だったら決まった人数で、絶対に来るお客様だけを対象にしようと、完全予約制に切り替えました。そうやって何度も何度も結果を見ては改良する、という繰り返しです。
浅草橋は日本でも有数の問屋街ですから、単純にすごく便利です。たくさんの材料を目にすることで、ワークショップの新しいアイデアも湧きますし、お客様に「この素材は、駅に行く途中のお店で売っていて……」と紹介してあげるとすごく喜んでいただける。
これも道草アートラボのひとつの魅力になっているので、浅草橋を選んだのは大正解だったと思いますね。
東京都台東区浅草橋1-31-4 大原第三ビル3階B室
http://michikusaartlab.com/
ライター/コピーライター。これまで求人・採用などキャリアデザイン関連が中心だったが、最近はテーマがライフデザインに拡大。ユニークな企業・団体・人との出会いが増え、「趣味=取材」の公私混同系ライターとしては楽しい毎日。