トップインタビューつくる人も、使う人も。関わる人を幸せにするアッシュコンセプトの「デザイン思考」

2017.04.19
つくる人も、使う人も。関わる人を幸せにするアッシュコンセプトの「デザイン思考」

01アッシュコンセプト 代表取締役
名児耶 秀美 (なごや ひでよし)さん

動物型のシリコーン輪ゴムや、雨の日の水はねをイメージした傘立て、カップ麺のふたをさまざまなポーズで押さえる人型のフィギュア──。蔵前にあるショップ「KONCENT(コンセント)」には、生活の中で感じるちょっとした不便をユニークなアイデアで解決してくれる生活日用品がずらりと並んでいます。

同店を運営する「h concept(アッシュコンセプト)」は、自社ブランドの企画・販売や、モノづくりをする企業・産地のデザインコンサルティングを手掛ける会社です。オリジナルブランドの「+d(プラスディー)」をはじめ、企業や墨田区とのコラボレーション、産地と一緒に作っているプロダクトなど、これまでに150名を超えるデザイナー、100社を超えるメーカーと、多数の製品を生み出してきました。

アッシュコンセプトを立ち上げたのは、「デザイナーを元気にしたいと思ったから」と名児耶秀美社長。「つくり手を応援する」という事業構想が生まれた背景とは? 名児耶社長にお話を伺いました。

プロダクトデザイナーを応援するために会社をつくった

創業のきっかけについてお聞かせください。

まず、僕の実家の話から始めましょう。実家は墨田区に拠点を構える家庭用品メーカーのマーナという会社です。「ブタの落としぶた」などの製品が有名ですね。僕は1984年に高島屋の宣伝部を退職し、マーナに入社しました。その頃のマーナの製品は、品質は優れていたものの、デザイン力が弱かった。そこで、デザインスタッフを増員するなどして、製品を改革していったんです。

たくさんのプロダクトデザイナーに助けられたおかげで売り上げは約10倍に。その成果から、彼らの名前をもっと前面に出してもいいのではと提案しましたが、社内での理解が得られませんでした。それならば自分で“デザイナーを元気にする”事業を興そうと考え、2002年に「アッシュコンセプト」を立ち上げたんです。

企業名の頭文字である「h」にはどのような思いがこめられていますか。

創業を決めたときに、happyやhello、hahahaなど「h」で始まる言葉を大事にする会社をつくりたいと考えました。フランス語読みの「アッシュ」にしたのは、フランス語には単語の頭に付く「h」を発音しないというルールがあるから。僕らはデザイナーや産地など、色々な人を応援する黒子でいいという思いを込めました。

02ショップ、ギャラリー、スタジオが一体となった「KONCENT」の店内

デザイン=思いやりを持ってものをつくること

創業後、まず初めにどのようなことに取り組みましたか。

デザイナーの名前と顔とメッセージを世界に届けるブランド「+d」を立ち上げました。このブランドで初めて作ったのが、動物型のシリコーン輪ゴム「アニマルラバーバンド」です。通常、輪ゴムは使い捨てることが多いですが、動物の形にしただけで大事に使うようになります。優れたデザインには、意図する方向にユーザーを導く力があるんですね。

この商品を最初にお披露目したのは、ニューヨークの小さな展示会でした。そこでニューヨーク近代美術館(MoMA)のバイヤーに発見してもらい、MoMAで販売することが決まると、日本のバイヤーが次々買ってくれるようになりました。営業の仕方で商品の広がり方も変わるという事例です。私はこれを「営業のデザイン」と呼んでいます。

03動物型のシリコーン輪ゴム「アニマルラバーバンド」(写真はワイドタイプ)

形をつくるだけがデザインではないのですね。

デザインの本質は、使う人のことを考えて、思いやりを持ってものをつくることです。だから私は「デザインの思考」を持って仕事をしようと、いつもスタッフに言っています。営業でも事務でも広報でも、デザインの思考を持って取り組めば、思いもよらない道が拓けることもある。

もちろん経営も同じです。例えばお客様が少ないことは、創業したての人の悩みの一つですよね。多くのお客様に出会うためにはどうすればいいか? 大事なのが、展示会に出展することです。3日間出展すると300〜400人ほどに出会える可能性があるからです。商品をどんなふうに見せれば興味を持ってもらえるか。デザイン次第で、より多くのお客様と知り合うことができるでしょう。

小さな数字の積み重ねが、経営を続けるための利益を生む

「デザインの思考」以外に創業者が心得ておくべきことはありますか。

創業したての頃は、固定費だけが出て行き苦しい時期が続きます。そのため3年以内に7割が廃業してしまいます。経営を続けるために必要なのは、細かく計画を立てること。実は私も毎年、詳細な計画書を作成しています。1店舗で売ってもらったら、1日10個売れたら、100店舗になったら……。計画に沿ってきっちりやっていくと利益が出てきます。

私が創業時に定めた目標の売上高は10年で10億。創業から15年を迎えた2016年にようやく達成することができました。ゆっくりと成長を楽しみます。

04ヒット商品の1つ「カオマル」。手でギュッと握ると表情が変わる

名児耶さんにとって、東東京は生まれ育った場所でもあります。これから創業する人に向けて、東東京の魅力を教えていただけますか。

台東区や墨田区には職人が多く、ものづくりをする人にとって便利な街です。例えば革を扱う場合、なめしから加工まですべてこのエリアでそろってしまいます。2004年に台東デザイナーズビレッジがスタートしたあと、卒業生が蔵前周辺にアトリエやショップを構え始めました。それも、この街の便利さを知って好きになったからでしょうね。

蔵前が面白くなっているのは、創業した人たちが自ら行動しているから。活動的な人が多い街を拠点にするのは、創業を考えている人にとって得るものが大きいと思いますよ。

05創業セミナー「Speak East」の参加者と記念撮影

koncent
アッシュコンセプト
「モノづくりを通して世の中を元気にする」をテーマに、オリジナルブランド「+d」の商品企画・販売や、モノづくりに取り組む企業・産地のデザインコンサルティングを手掛ける。自社で運営するショップ「KONCENT」は国内5店舗、海外3店舗(2017年2月現在)。そのほか、200以上のリアルショップやウェブショップで商品を展開している。

〒111-0051 東京都台東区蔵前2-4-5
電話:03-3862-6011
http://www.h-concept.jp/

この記事を書いた人

佐藤由衣

下町住まい7年目の雑食系ライター。仕事人の情熱を適切な言葉に落とし込み、必要としている人に届けることをめざし、トヨタOPEN ROAD PROJECTやコーヒーマシンのサイトにてコラム記事を執筆中。