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2017.03.29
人が集い、新たなアイデアが生まれる場に 町工場に隣接するものづくり工房「ガレージスミダ」の挑戦

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株式会社浜野製作所
代表取締役CEO 浜野慶一さん

墨田区で板金・プレスを中心とした金属加工業を営み、地域に根差して成長する浜野製作所。代表取締役CEOである浜野慶一さんは、会社の経営を担いながら、2014年4月、ものづくりの総合支援施設「Garage Sumida(ガレージスミダ)」を立ち上げました。

金属加工工場に隣接し、先進的なデジタル工作機器を備えるものづくりの実験工房であるとともに、スタートアップベンチャーのインキュベーション施設としても活用され、国内外の企業をはじめ、研究者や学生など様々な人が集まっています。

「新ビジネスの育成」をテーマに、個人からベンチャー企業にいたるまで、多数の相談事を受け入れ、プロダクト製作をサポートしてきたガレージスミダ。今回は、施設運営に至るまでの経緯や、今年予定されている、ガレージスミダの機能拡張についてお話を伺いました。

町工場の技術を絶やさないためのつなぎ役

ガレージスミダを立ち上げた理由について教えてください。

町工場が持つ技術を、絶やしてはいけないという思いからです。

高度経済成長期の1970年頃、墨田区には町工場が1万軒ほどありましたが、この先5年以内に、その4分の1を割り込むと言われています。一度工場を閉めてしまうと、地価も人件費も高い都内に工場を再建して、技術の復活を目指すことは考えにくい。集積が失われていきます。

加えて今は、3Dプリンターなど画期的な機械が市場に出回り、町工場からは「あんなものが広まったら、商売あがったりだ」と嘆く声も聞こえます。だけど、そうじゃない。先進的な機械によって多くの人のアイデアが形になれば、ものづくりの裾野は広がります。実はそのタイミングが、町工場の技術を社会に役立てられるときなのです。

ただこれまで、ほとんどの町工場は大企業の下請けで、今まで外に出て営業などしたことがありません。そこで、私たちが新たな作り手の相談窓口となって、周囲の工場と提携しようと考えたんです。

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新しい産業サイクルを生み出すガレージ

ガレージスミダで実現できることはなんでしょうか。

開発と設計から、試作、量産までをサポートできます。施設内には3DプリンターやUVプリンター、低出力のレーザー加工機といった、デジタル工作機器がそろっています。

金属加工の工場に隣接したものづくりの実験工房として、これらを活用したプロトタイプ製作や、金属製品への追加工など、これまでの製造ラインでは対応していなかったことが出来るようになり、ものづくりサービスの幅が広がりました。

またガレージスミダは、スタートアップベンチャーのインキュベーション施設でもあります。現在は5つのベンチャー企業が入居していて、それぞれがアイデアの製品化に向けて活動しています。

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ガレージスミダの最大のメリットは、浜野製作所という金属加工の本格的な製造現場が隣接している点にあります。これにより、設計段階から製造を見通した職人のアドバイスが受けられますし、試作から量産までスムーズに移行できます。

ベンチャー企業をはじめ、都内で本格的なものづくりを考えている方には「製品を作るならガレージスミダで」と思っていただきたいですし、そういった方々がこの場所に集うことで、新しいものづくりのアイデアが生まれる。そんな施設を目指しています。

産学官連携にも積極的ですね。

ガレージスミダを始める前から、多くの学生や研究者を受け入れてきました。「こんなものをつくりたい」と当社を訪ねてくる方々は、「自分たちの研究成果で、世の中の問題を解決したい。笑顔になる人を増やしたい」と本気で思っているんです。私も同じ思いを持っているし、目指す方向性が一致すると信頼できるパートナーとなり、お互いの得意分野を活かして取り組めます。

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浜野さんは以前から、社会に対して高いマインドをお持ちだったんですか?

いや、もう全然(笑)。志の高い人たちと研究を進める中で近付いていった感じです。

今は彼らと一緒に、社会の問題解決ができるステージに上がりたいんです。私たちはもう、金属加工屋というだけじゃない。社会に目を向け、頼りにされたときに対応できる会社を目指していきたいです。

東東京なら、膝を突き合わせ、人間同士で話ができる

ガレージスミダは今年新展開を迎えるそうですね。

2017年9月を目途に建て替えます。床面積を3倍、フロアを3階層に増床し、ベンチャー企業向けの個室を8社分つくる予定です。アイデアを形にするための工作室も整備し、これまでの経験も取り入れながら、より前向きに支援体制を整えたいと思っています。

東東京で創業することのメリットや、可能性についてお聞かせください。

「実は、地の利がいい」というのは魅力だと思います。

創業すると、クライアントとじっくり話すことが大切。当社だと、最寄りの八広駅から銀座まで20分ほどで着きますし、その他の東東京エリアも都心とのアクセス性が高い。会って話すことで新たな展開が広がったり、製作段階で手戻りが防げたりするので、この地の利は活かせると思います。

仕事の基本は信頼関係。このエリアには、旨いもつ焼き屋がたくさんありますよ(笑)。コップ酒片手にお互い鎧を脱いで、人間同士で話し合えるのも、東東京の魅力じゃないでしょうか。

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Garage Sumida(ガレージスミダ)
長年、金属加工業を営む浜野製作所が運営するものづくりの総合支援施設。先進的なデジタル工作機器を備え、町工場の職人の支援を同時に受けられる。同施設が持つ様々な業種・業界のネットワークと人々・アイディア・マーケットをつなぎ、新しい技術・製品・サービスを創出している。
131-0041 東京都墨田区八広4-36-21
電話:03-5631-9111
FAX:03-5631-9112
http://www.garage-sumida.jp/

この記事を書いた人

岡島梓

フリーライター。周囲の人や町の魅力を言葉で誰かに届け、私のあずかり知らないはじまりを作れたらと思います。明日が少し楽しくなるきっかけの時間「旅する図書館」というサロンをさまざまな場所をお借りして開いています。https://www.facebook.com/travelinglibrary.ultreya/