「スミファ」すみだファクトリーめぐりとは、墨田区の町工場をめぐり、職人と話しながら技術に触れ、ものがつくられていく”現場”を肌で感じることができるイベントです。今年はコロナ禍にあり、初のオンライン開催となりました。「すみだの達人とめぐる満喫ツアー」と題し、久米繊維工業株式会社の相談役であり、iUの専任教員も務める久米さんの案内で、墨田区の工場と、すみだのディープな裏路地や商店街を自転車でめぐりました。
今回は、2020年に墨田区に出来た新しい大学、情報経営イノベーション専門職大学(iU)に通う学生がサポートとして、3つの現場に同行。その様子を、iU1年生の佐藤がレポートいたします!
【日時】
2020年11月22日(日) 13:00〜16:50
【会場】
墨田区周辺
【訪ねた現場】
・石宏製作所
・慶文堂
・岩井金属金型製作所
・仕立て・直や
・すみずみ(インフォメーションセンター)
【ツアー担当者】
久米 信行 氏(久米繊維工業 相談役・iU情報経営イノベーション専門職大学 教授・墨田区観光協会理事)
【タイムテーブル】
13:00-13:30 石宏製作所
13:50-14:20 慶文堂
14:30-15:00 岩井金属金型製作所
※iUの学生が同行したのは、ここまで。
15:20-15:50 キラキラ橘商店街
16:00-16:30 仕立て・直や
16:40-16:50 すみずみ(インフォメーションセンター)
ツアーは石宏製作所からスタートしました。今回は石宏製作所の二代目石田明雄さんにお話を伺いました。工場に入ると、色々な長さや形、大きさのハサミが並んでいました。
数多くの種類のハサミがあり、用途は多岐にわたります。最初に紹介されたのは、手術の際に使用する口の中用のものやへその緒を切るもの。手術用のものも使い捨てではなく、切れ味が悪くなったら分解して研ぎ、繰り返し長く使われています。また、テープカットに使用される重厚感のあるハサミもありました。3ヶ月待ちになるほど反響を呼んでいて、高い評価を得ていることから、墨田区のふるさと納税の返礼品にもなっているそうです。
普段なかなか持つことのないハサミを触らせていただきました。
次に、作業の様子を見学しました。
刃が常に一点で接するように、わずかな捻りと外側への膨らみをつくります。全て手先の感覚で行っていて、まさに職人の技でした。お尋ねした職人さんは、一人前になるまで10年以上かかったと言います。
工場の壁には娘さんからのメッセージやマザーテレサの言葉などが貼られていて、石田さんの温かさとの作業への心意気が感じられました。
次に創業九十四年、印章・ゴム印の彫刻製造販売をしている慶文堂にお邪魔しました。ここでは19歳の頃から判子を作り続けているという職人の増澤かんなさんにお話をお聞きしました。
中に入り、最初に百福百寿という判子を見せていただきました。
百個の「福」と百個の「寿」が彫られていて、「福がたくさんありますように。健やかでありますように」という思いを込めて製作されたそうです。ルーペで覗くと、その繊細さにとても驚きました。
最近は機械で彫ることもできるため手で彫る人は少なくなったけれど、手彫りの方が様々な工夫ができて長持ちするそうです。また、世の中では判子はいらないのではという意見も出されていますが、増澤さんは「手で彫ることで一刀入れれば違うものができて、それが自分の目印になる。責任を感じながら押してもらう判子を作りたい」と言っていました。
確かに、判子がなくても良いと感じる場面もありますが、お話を聞き、私も大切な場面では手で彫った思いの込められた判子を使いたいと思いました。
最後に作業風景を見せていただきました。「彫るのが楽しい」と言う増澤さんからは判子とこの仕事への愛情が伝わってきました。
岩井金属金型製作所では主にプレス金型というものを用い、プレス機で強い圧力を加えることで金属を成形する作業が行われています。
今回は、同社の代表である岩井保王(やすお)さんにお話を伺い、丸物絞り加工の様子を見せていただきました。丸物絞り加工とは、薄い板状の金属を容器状にする作業です。加工したものは、電球の口金などに使われています。
出来上がった二つの大きさは微妙な違いがあり重なるようになっていて、その差は0.15ミリほど。きつすぎると空気圧で開かなくなってしまいます。
岩井さんによると、調節は自身の経験や感覚から分かってくると言います。「指の先はミクロン単位の違いも判断できるすごく繊細なセンサーを持っている。さらにその道のプロは同じものをずっと触っているとさらに繊細になる。みなさんも同じようにやったら絶対にその域に達しますよ」と話します。
またコンピュータが発達した今、手作業の方が良い部分はあるのかという質問に対し、「新しい機械ができても、その機械をベースにするより高度な製作ができるようになる。人間の底力は凄まじく、コンピュータと同じく人間も進化していく」と言います。
コンピュータやインターネットが発達する中で、五感を使うことは少なくなってしまいがちですが、お話を聞いて、実際の感覚を大切にし自分を高めていきたいと思いました。
ツアーで回ってみると、「10年、20年経ってやっと思うようにできるようになった。これからも生涯修行だ」と、作っているものは違えどみなさん似たことを言っていたのが印象的で、「継続は力なり」という言葉をまさに体現しているようでした。そんな日々の努力、小さな積み重ねが日本が誇るものづくりを支えているのだと分かり、深い尊敬の気持ちを抱きました。
私は今までに少しやってみただけでうまくいかず向いてないと思ったり、途中で諦めてしまったりしたことが多くあります。しかし今回のツアーを終えて、物事を続けるということに対して少し前向きになれた気がします。
貴重な経験をありがとうございました。
取材・写真:佐藤 郁(情報経営イノベーション専門職大学 1年)