台東区を中心にNPOや浅草エーラウンド、モノマチなどさまざまなイベントで活躍する薮原和雄さん。某大手事務機器メーカーに勤めながら、アフター5や週末には数多くの活動に関わられています。そんな薮原さんは、45歳にしてようやく自分の人生を楽しめるようになってきたのだそうです。
大学卒業後は、何度か転職を繰り返すもずっと企業に勤めていましたが、ずっと何かモヤモヤしていた薮原さんは、あることをきっかけにさまざまな人と関わるようになり人生観が変わったといいます。起業やフリーランスなど働き方が多様になってきている時代でも、サラリーマンを続けながら自分が活きる場所を見つけた薮原さんのお話をお伺いしました。
NPOでは、台東区のまち歩きツアーやおかず横丁でさんま祭りやミニSLを走らすお手伝いをしたり、革とモノづくりの「浅草エーラウンド」や「モノマチ」のボランティア、革の職人さんとお子様向けのワークショップのお手伝いをしています。ほかにも、中小企業や起業に興味がある人向けにさまざまなワークショップを行う中小機構の「TIP*S」のアンバサダーとして運営に関わっていたり、1日BAR店長をやってみたり……。会社内でも、若手向けのワークショップを行なうこともあります。
自分が面白いと思えることに積極的に関わって、気づくと今の状態になっていました(笑)。関わる中で知り合いも増え、「ヤブさん手伝って」と声をかけられると、つい二つ返事をしてしまうのです。そこからまた、次の面白い人やことにつながっている感じですね。僕は性格的に、何か一つ目標を決めて目指すのは途中で辛くなり続かない性格で……。だから、自分がワクワクする思いに従って、興味あることに関わっていくようにしています。いろいろなことに携わっているので、自分が何者であるかを一言で説明するのは難しくて(笑)。パラリーマン(パラレル+キャリアサラリーマン)とか、生き生きと過ごす人を増やすお手伝いをしたいと思って活人家(かつじんか)といったりしています。
大学を卒業して大手会社に勤め、それなりに仕事の経験もあり周囲から信頼いただくこともありましたが、自分のやりたいことをやっている人がキラキラして見え、心のどこかでその人たちを羨ましいと思っていました。どうしてもその人たちと自分を比較し、なかなか自信が持てなくて、自分の事を好きになれずにモヤモヤしていました。
それでも、何か始めようとして一人で飲みに行ったり、ランニングを始めたりと小さく行動をしていました。そんな時に、TIP*Sでマイプロと出会ったんです。
マイプロは、「マイプロジェクト」の略で、個人の可能性と仲間同士の深い関係性をつくり出すものです。一人一人がプロジェクトをつくり、仲間と共に実現の一歩を踏み出すワークショップです。参加者同士で対話を重ねていくので、一人で鬱々とした感じにはならなかったのも良かったですね。みんないろんなことをさらけ出すから、最後は同志みたいになっていました。
僕は短文で日記をつけていたのですが、初めて参加した日の1行日記には「夜はマイプロ、すごく考えさせられた。この歳で自分探しの旅なのか……」って書いていた。この時もがいていた感じがこの1行に残されてますね(笑)。
TIP*S以外でも「とにかく何かしよう」と思っていろいろな講座やセミナーに参加していましたがマイプロで一番学んだのは、自分の頭や体を使って実際にアクションを起こしてみることの重要性だったと思います。
薮原さんのプロジェクト
行動を起こすようになって、会社名や肩書きではなく、個人としてできることがあるって、自分の役割があるということに気づきました。一つずつやりたいことをやっていったある時、他人と比較したり、人をうらやむ気持ちがなくなっていることに気がついたのです。それまでモヤモヤしていた自分が「これでいいんだな」と思えるようになりました。何かを目標にしてきたわけではないですが、振り返ってみると数年前には考えもしていなかったことができたり、想像もできない人とつながっていたり。確実に自分の足で歩んできた実感もあって「今の俺ってすごいじゃん」って本気で思っています(笑)。小さい経験を積み重ね、自信が少しずつ芽生えてきた感じです。これまで他人軸で生きて、人と比べながら「こうあるべき」と考えていたので、自分がどう思うのかということを大事にできていなかった。だからずっとモヤモヤしていたんだと思います。
浅草エーラウンドでの様子
周囲には定年を迎えてから、この先どうしようと考え出す人が非常に多いです。僕は会社に属していることを最大限活用しようと思っています。定年まで会社にいてもいいし、途中でやめてもいい。定年に焦ることなく自分の居場所を探していけたら良いのではと思っています。選択肢はいっぱいあった方がいい。
せっかく縁があって入社したのだから、会社員である環境を生かして活動するのもいいと思います。会社員だからこそ、収入を安定的に見込むことができるし、大きなリスクを抱えずに、小さく何かを始めることができるメリットがあります。それに、会社にいるからこそ知り合える人もたくさんいるし、その会社でなければできないこともあるはずです。組織内でも自分が動けば、必ず何か変化が起こせると確信しています。小さな変化だとしても、次第に大きな変化になっていくかもしれない、と思って会社生活を送っています。
100のやりたいことをノートに書いているそうだ。
台東区で養蜂を始められたら面白いのではないかと考えています。「下町ハニープロジェクト」と名づけました(笑)。まずは自分が生産者になりたい、ミツバチを育てはちみつを生産して商品化したい。商品開発や区内のBARでオリジナルカクテルを作ってもらったり、小中学生の食育にもつなげていきたいし、高校に指導にいって養蜂部をつくってもいいな、と拡がりを考えています。近くのお寺や学校とかに蜜が取れる植物を植えてもらったら環境にも良いし、みんなが幸せになるプロジェクトだと思っています。「台東ハニー」と名乗らないのは、台東区に限るのではなく東東京で盛り上がりたいから。このプロジェクトで何かやりたくてモヤモヤしてる人に手伝ってもらい、その人たちにとって、何かのきっかけにもなるような場になったらいいなと思いますね。
また、今後は顔の見える身近な人と何かをやっていきたいですね。全ての人をハッピーにするみたいな大それたことは考えてなくて、関係する人たちが幸せになってくれたらそれでいい。今は、台東区でさまざまな縁があって主な活動エリアとなっているのもありますが、 「台東区LOVEな人」を増やしたいですね。台東区は23区で一番面積が小さくて、しかもハートの形をしているんです。そこに上野や浅草の繁華街、モノ作りや職人、美術館や大学があり、さらに鶯谷や吉原というエリア――人の生活がギューッと詰まっている面白いまちだと思っています。
僕がハブになっていろんな人をラブで繋いでいけたら楽しそうですね(笑)。
企画・デザイン・ライター。 モヤモヤしていることをカタチにするお手伝いをしています。不定期で、ただ話を聴くだけのキキヤ(聴き屋)も活動中。 山と風とグリーンカレーと日本酒とお笑いが好き。