トップインタビュー既成靴の新しい形に挑戦、履き心地の良さをお客様とつくるRENDO

2018.10.17
既成靴の新しい形に挑戦、履き心地の良さをお客様とつくるRENDO

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株式会社スタジオヨシミ
代表取締役 吉見鉄平さん

150年近く続く革靴の生産地であり、製靴メーカーや、靴のパーツをつくる工場が集積する奥浅草エリア。ひとつの地域で1足の靴が完成するのは、世界でも珍しいと言われています。そんな奥浅草の一画に、男性用のドレスシューズを中心に展開するブランド「RENDO」(レンド)はあります。

RENDOの特徴は、既成靴でありながら、採寸や細かい調整を行うこと。履く人の足にフィットさせていく独自のメソッドが、靴好きの男性たちから支持を集めています。

代表の吉見鉄平さんは、もともと靴のデザインを型紙に起こす「パタンナー」として靴業界に携わってきました。技術職の時代は「あまりお客様のことを見ていなかった」と話す吉見さんが、履く人の感覚を重視するようになったのはなぜでしょうか? 浅草にある工房でお話をうかがいました。

いかに美しい靴をつくるかがすべてだった

靴の仕事を始めたきっかけを教えてください。

大学在学中に「靴の仕事をしたい」と思い、ロンドンに留学したのが始まりですね。「コードウェイナーズ・カレッジ」という製靴技術を教える学校で学び、帰国後に休学していた大学を卒業しました。

その後、台東分校(東京都立城東職業能力開発センター台東分校)という職業訓練校で学び、卒業後は製靴メーカーに就職したんです。5年ほど働いた後、会社を辞めて再び渡航。海外で仕事をしてみたいという気持ちがあったんですが、結局、ビザの問題でかなわなくて……。帰国した後、技術職である靴のパタンナーとして独立しました。

技術職ということは、今みたいにお客様とやりとりする機会はなかったということですか?

そうですね。技術職一本で仕事をしていた当時は、どう履いてもらうかよりも、いかにきれいな靴をつくるかが重要だと考えていました。製品というよりも、どちらかといえば芸術品をつくっている感覚に近かったかな。お客様のことは、正直、あまり見ていなかったと思います。

RENDOの内部。もともとは靴屋の倉庫だった場所を改装し、工房兼店舗に

RENDOの内部。もともとは靴屋の倉庫だった場所を改装し、工房兼店舗に

いつ頃から、自身のブランドを立ち上げようと考え始めたのでしょうか?

独立して4年ほど経った頃、パタンナーの仕事以外に、OEM(メーカーから販売される靴の企画・製造)の依頼を受けるようになったのがきっかけですね。OEMの場合、靴の木型づくりから取り組む必要があるんです。

木型づくりの知識はありましたが、実務経験がほとんどなかったので、自分がつくった木型が人の足にフィットするか分かりませんでした。そこで、ビスポーク・シューズをつくっている柳町弘之さんという方が主催する講座を受講し、2年間勉強することにしたんです。

ビスポーク・シューズとは?

いわゆるオーダー靴のことです。柳町さんは、イギリスで製靴技術を学んだ職人さんで、とてもきれいな靴をつくる方なんです。柳町さんの下で学んだことがきっかけとなり、依頼を待つだけでなく、自分のブランドを立ち上げたいという気持ちが高まっていきましたね。

既成靴とオーダー靴の中間があってもいい

RENDOは既成靴のブランドですよね? オーダー靴のブランドを立ち上げようとは思わなかったんですか?

思いませんでした。僕は工場出身の職人なので、1足の靴を皆でつくり上げるのが、靴づくりの醍醐味だと思っているんです。

それに、既成靴/オーダー靴だけでなく、その中間があってもいいとずっと感じていたんですね。柳町さんの下で学びながら、既成靴とオーダー靴の中間点を探るのが僕の仕事かもしれないと考えるようになっていきました。

奥の工房で靴の型紙を切る吉見さん

奥の工房で靴の型紙を切る吉見さん

既成靴とオーダー靴の中間点というのは、具体的に?

既成靴を購入するときは、ほとんどの人が、自分で把握しているサイズを選ぶと思います。でも、足より大きめの靴を履いている人が意外に多いんですよ。例えば、普段は26cmを履いているけど、採寸すると25cmということですね。

そのためRENDOでは、お客様がいらしたら、まず足を採寸させていただき、独自のサイズ表に当てこんでいきます。

たとえ採寸した結果が25cmであっても、普段26cmを履いている人に、いきなり小さいサイズを勧めることはできません。だから「今回は25.5cmでいってみましょう」と伝えて、少しずつ調整していくんですね。履き心地の良さを、お客様と一緒につくっていくのが、RENDOの特徴と言えるでしょうか。

型紙を木型に合わせている吉見さんと、奥でミシンをかけているスタッフ

型紙を木型に合わせている吉見さんと、奥でミシンをかけているスタッフ

接客と靴づくりを並行するのは大変そうですが、ブランドを立ち上げた当時からスタッフを雇っていたのでしょうか?

柳町さんの下で学んでいた当時、OEMの仕事が徐々に増えてきて、1人では手が足りないと感じ始めたんです。それで、知り合いに「ちょっと手伝ってもらえないかな?」と声をかけて、週4日の契約でパートとして入ってもらいました。

初めてスタッフを雇ったとき、ハードルは感じませんでしたか?

やっぱり、不安はありましたよ。なので、当時4人スタッフを抱えていた柳町さんに相談したんです。そうしたら「最初の1〜2年だけ見たら多分マイナスでしかない。でも、できることの範囲は絶対に広がるし、もう少し長い目で見るといいんじゃない?」と言われました。「そこにチャレンジするのは、靴業界でずっと仕事をしている人間の義務だよね」とも。それを聞いて、自分もそうやって靴業界に育ててもらったんだなと実感できたんですよね。

僕が最初に製靴メーカーに就職したとき、会社に余裕があったわけではなかったんです。でも「若い人が希望してくれたから」といって雇ってくださったんですね。そういう経験があったので、少し無理をしてでも、靴業界に貢献していかなければという気持ちは大きかったですね。

靴をつくる工具と道具。保証人が不要な台東区の融資制度を利用して機材をそろえた

靴をつくる工具と道具。保証人が不要な台東区の融資制度を利用して機材をそろえた

ブランドを続けていくために必要なこと

今の時代、ブランドを続けていくのはなかなか難しいと思います。吉見さんが考える「続けていくコツ」を教えてください。

自分のやり方に固執しないことでしょうか。台東分校で学んでいたときに、尊敬していた先生から、口をすっぱくして「仕事を始めたら『学校ではこう習った』なんて口が裂けても言うな」と言われていたんです。

靴業界は、職人さんによってやり方が違いますし、学校で習ったことと正反対のことを現場で指示される場合もあります。どちらかが間違っているわけではなく、どちらも正しいことが、けっこうあるんですよね。

僕も最近、学生さんに靴の技術を教える機会があり「学校の先生は逆のことを言っていたんですけど……」とよく言われるんですよ。そういうときは「上野から渋谷に行こうとしたときに、山手線の外回りに乗っても内回りに乗っても、渋谷には着くよね。それ以外に銀座線で行く方法もある。靴づくりもそれと同じで、正解はひとつじゃないんだよ」と説明しています。

製作途中の靴で説明する吉見さん。動物半頭から5足の靴ができるそう

製作途中の靴で説明する吉見さん。動物半頭から5足の靴ができるそう

今後、ブランドを大きくしていくことは考えていますか?

自分がつくった靴を多くの人に履いてもらいたいという感覚は、昔からありますね。浅草の店舗だけではブランドの認知が広がっていかないので、最近は地方での出張販売なども始めました。そういう努力をしても、ブランドを知ってもらうには限界があると思うんですよ。

RENDOでは、今まで卸をやってきませんでしたが、ブランドの理念を共有できるパートナー店舗を探していくことが次の目標かなと考えています。今は、自社の店舗を増やして、利益率を高めていく会社のほうが多いので、時代の流れには逆行していますけどね。RENDOというブランド名は、日本語の「連動」が由来ですが、人と連動して仕事をするほうが、絶対に楽しいというのが僕の持論なんです。

既製品の中からお客様1人1人に合った靴を提案するのがRENDOのスタイル

既製品の中からお客様1人1人に合った靴を提案するのがRENDOのスタイル

東東京で創業するメリットについて、ご自身の考えを教えてください。

僕は靴職人なので、つくる現場が近いというのは大きいですね。工場が近いと効率化につながりますし、現場に顔を出しやすいというのはメリットが大きいと思うんです。

メーカーで勤めていたときから、いいと感じるブランドの方はよく工場に顔を出していましたし、休みの日を使って、僕ら職人とコミュニケーションを取りに来ている方もいましたね。今、工場で働いている職人は、自分の後輩世代が多いので、自分がしてもらったように、現場に行って声をかけるようにしています。

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RENDO(レンド)
2008年、浅草・花川戸に「443pattern making」を設立し、フリーランスとして国内外ブランドパターン、企画業務を手がける。2013年社名を「株式会社スタジオヨシミ」とし、自らのブランド「RENDO」をスタート。奥浅草にある店舗を併設した工房で、紳士靴の製造と販売を手掛けている。

〒111-0032東京都台東区浅草7-5-5
https://www.rendo-shoes.jp

写真:イシバシトシハル

この記事を書いた人

佐藤由衣

下町住まい7年目の雑食系ライター。仕事人の情熱を適切な言葉に落とし込み、必要としている人に届けることをめざし、トヨタOPEN ROAD PROJECTやコーヒーマシンのサイトにてコラム記事を執筆中。