anima garageオーナー
福嶋慶太さん
下町情緒が残る荒川区の町屋にあって異彩を放っているのが、電気工事会社でありながら花やアンティークなどを取りそろえ、ワクワクする空間を演出しているライフスタイルショップ「anima garage」。
20代の頃は教育や飲食の道に突き進み、大きな挫折も味わったというオーナーの福嶋慶太さんは、どのようにして今のスタイルを築き上げたのか。
店舗の3階を自分たちの手でリノベーションしたという素敵なショールームで、これまでの物語を伺いました。
教育に興味があったので、保育士をしていたことがありました。しかし、「今のままでは日本の教育はよくならない。この現場ではないところから教育を発信したい」と思い、辞めました。
次に「福祉分野で先進的な北欧で学びたい」と思い、まず海外に慣れるために訪れたイギリスでは2日でホームシックになって……。帰国後、料理の道を志したこともありましたが、それも長続きしませんでした。それが不甲斐なくて、恥ずかしくて、「取りあえず家に戻るしかないか……」という感じでした。
正直に言えば、単調な仕事の繰り返しで面白さを感じられなかったんです。でも、一緒に働く職人さんは良い人ばかりでしたから、仕事が嫌になることはありませんでした。
ある時、自分の部屋の照明器具を交換する機会があって、カタログでいろいろ調べてみると「あ、照明ってこんなに空間の印象を変える力があるんだ」ということに気付ききました。その瞬間から「今やっている電気工事にも可能性があるかもしれない」と思って、照明やインテリアにのめり込んでいきました。
地域でもまわりに廃業する会社が増えてきて「何か新しいことをしなきゃ」という思いもありましたし、お店があれば商品や接客を通して、教育や食についても自分の考えを直接伝えられると思ったんです。
店舗の改装は、毎日現場から帰ってから少しずつ続けて、小さなスペースですが、全部で1年くらいかかりました。施工費用は、材料費などのほぼ実費のみです。
お店をオープンするにあたっての準備費用は、自社の蓄えで賄うこともできたのですが、職人さんも抱えていましたから、中長期で考えて金融機関からの融資も少し受けました。祖父の代から続く会社の信用もあったと思いますが、この地域は昔から町工場が多いので、金融機関はそういった融資に慣れていると思います。それに荒川区は、融資利率が他の地域と比べて低い印象があります。
両親は僕が「やりたい」と言い出したら聞かないことを知っているので、これは面倒だなと思っていたと思いますよ。でも、電気工事だけをこのままだ続けていても先が見えているし、自分たちで仕事を取らないといけないというのは明らかでした。最終的には、家族に対して新しい事業を真剣にプレゼンして、「それだったらやってみたら?」と言ってもらえたんです。
何より自分が好きかどうかですね。
花を扱い始めて徐々に、売れる花は分かってきました。でも、流行に流されるのは好きじゃないんです。流行を追いかけすぎると、農家さんなどのつくり手を困らせたり、環境に負担をかけたりすることも多くなります。何かを選択をする時に、その奥でどんなことが起きているかを想像して判断するようにしています。
たとえ、お客様からオーダーされたことでも、それが本当に必要かどうかを僕が納得するまでヒアリングします。利益の大小に関わらず、僕が良いと思ったものだけを提案するので、少なくともお客様からは「ぼったくる会社じゃないな」と信用してもらえているはずです。
1、2年では結果は出ないと思っていましたし、しばらくは種まきの時期だと覚悟していました。現在5年目ですが、実際にリノベーションの仕事が入るようになったのは、本当に最近のことなんです。
最初は電気工事の依頼で伺った現場で、「この棚も直したいんだけど……」といった小さな困りごとに応えていたんです。いろいろな相談に応えるうちに、「このスペースをお願いしたい」「新しい空間全体のプロデュースをしてほしい」というように、少しずつお客様の需要が広がっていきました。
振り返ると、ニーズはすべてお客様の言葉からもらった感じですね。お客様にとって僕は職人というよりは、お店のお兄さんという感じで気軽に頼みやすいのかもしれません。
このあたりは、良くも悪くも分かりやすいモノが好きな地域だと思います。ただ、うちで売っているモノが好きな人もいると思うので、もっとお店に来てくれてもいいのになと思うこともあります。もちろん、今の店舗は今後も拠点のひとつとして継続していきますが、事業にもっとフィットする場所も模索していきたいです。
新しい拠点を考えている方は、自分のやっている事業がその街の文化に合うかどうかを、きちんと見定めることをおすすめします。
これまでのお客様は足立区・荒川区が中心でしたが、最近では銀座にあるジュエリーのショールームやビルの屋上ガーデンのプロデュースなど、場所も役割も大きく変わってきています。情報発信という意味でも、これからもいろいろな現場に出ていきたいですね。店舗横のガレージでは、アーティストを招いた音楽イベントなどを行っていますが、そこは表現の実験場として、常に新しい空間演出を試し続けるつもりです。
これからも、細く長く生きていくために、流行りに流されず、自分が正しいと思う価値だけを提案し続けたいですね。
写真:イシバシトシハル
コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。