muumuu coffee 店主
灰谷歩さん
お店を始めるには、どのくらいの予算が必要なんだろう? 開店できても、維持していけるか心配……。そう考えて、創業に踏み出せない人も多いかもしれません。
今回お話を聞いたのは、2013年に墨田区・京島でカフェスタンド「muumuu coffee(ムームーコーヒー)」を立ち上げた灰谷歩さん。創業時の予算は、なんと100万円未満だったといいます。
2017年に、2軒目の店舗である「halahelu(ハラヘル)」を立ち上げた灰谷さんに、「ミニマム創業」を成功させる秘訣をお聞きしました。
2013年4月に、4軒長屋の一画を改装し、友人と一緒にカフェスタンドを始めました。友人の屋号が「サテライトキッチン」、僕の屋号が「ムームーコーヒー」。同じ店内に、2つの店が入っている形だったんです。
2017年4月、その長屋と同じ通りにある物件を借りて、「ハラヘル」というシェアカフェをオープンしました。場所の名前が「ハラヘル」で、その中に「ムームーコーヒー」が入居しているという位置づけですね。
いいえ。当初は、1人で2軒やろうと考えていたんです。同じ通りにあるし、曜日を分ければ2つの店を行き来できるんじゃないかと思っていました。でも、いざ始めてみたら難しかった。2つの店に同じ機材をそろえられず、ハラヘルだとエスプレッソが淹れられないなど、穴が見えてきたんです。
1年弱続けて、1店舗に集中したほうがいいと判断したので、長屋のほうはサテライトキッチンに任せて、ハラヘルに完全移転しました。
今は、「帆帆魯肉飯(ファンファンルーローハン)」という台湾料理の店や、「もこや」という創作和食の店、「BAR MIKAN(バー・ミカン)」という日本酒バーなどが入っています。曜日を決めて毎週開店している人もいるし、月1で開店している人もいますね。ほかにも、「時間が空いたら開店します」というフレキシブルなメンバーもいます。
2009年から2011年まで、ワーキングホリデーでオーストラリアのメルボルンに行っていました。向こうにいるときにバリスタに興味を持ち、帰国してから都内のコーヒー専門店でアルバイトを始めたんです。
バリスタになりたいというよりも、メルボルンのライフスタイルに共感を覚えたんです。メルボルン生活を日本で実現する場合、どんな仕事につけばいいか? そう考えたときに、バリスタという職業が思い浮かびました。メルボルンはコーヒーカルチャーの濃い街ですし、コーヒーについて勉強するにはぴったりだと考え、数週間くらいでカリキュラムを終えられる現地の学校に入ったんです。
そもそもワーキングホリデーに行ったのは、向こうで暮らしながら音楽活動をするのが目的でした。そのため、僕がメルボルンで知り合った人は、ミュージシャンが多かったんです。みんな、仕事して、家に帰って夕飯を食べてからライブに行くんですよ。日本にいたときは、半休か休みを取って、お昼からリハーサルに行って……というのが普通だと思っていたので、「こういうライフスタイルも可能なんだ」と驚きましたね。
1軒目を立ち上げたとき、計画的に創業したわけではなかったんです。長屋の大家さんからたまたま話をいただき、そのときの経済状況でギリギリ回していけそうだと判断したので、「とりあえずやってみようかな」という感じでした。
バンドマンって、お金がない中でどうやって音楽活動をしていくかを模索している人が多いと思うんですよ。だから、DIY精神がやたら高いんですよ(笑)。一緒に店を立ち上げた友人もバンドマンなので、「お金がないなら自分たちの手で何とかしよう」という話になりました。知り合いから古道具を安く譲ってもらったり、リノベーションのための道具を貸してもらったり。そういった協力のおかげで、時間はかかりましたが、低予算で創業することができました。
半年ほど前まで人が住んでいた物件だったので、中はきれいで、住むには問題ない状態でした。店舗内装向けに壁を建てたり、塗ったりがメインの作業だったのですが、天井を抜いて梁がむき出しになっている友達のお店を見て、どうしても天井を抜きたくなってしまって。天井を抜く作業を増やしてしまい、そのあとの処理もけっこう大変したね。着工からオープンまで、だいたい2カ月半くらいかかりました。
そうです。週6日はムームーコーヒーで働いて、残りの1日の休みをハラヘルの作業日にしていました。そのスケジュールで半年間やっていたんですけど、作業がまったく進みませんでした。
なので、途中からは4日間営業して、残りの3日間を作業にあてるように切り替えましたね。営業を一旦休んで、一気に作業できればよかったんですが……。ハラヘルを始めたときも、お金が全然なかったので(笑)。次の週の材料を買うために働かなくちゃいけなかったんです。結局、1年1カ月ほどかけて、ハラヘルを完成させました。
そう考えると、どこまで自分でやるべきかを見極める必要もあるんでしょうね。お金を払って作業してもらえば、その分、時間を使えますから。ただ、僕の場合は作業工程も好きだし、イメージどおりの店をつくりたかったので、自分の手でとにかくやれるだけリノベするほうを選びました。というか、お金がなかったので、選択肢はなかったのですけど。
これは、僕が店を維持していくための秘訣なんですが……。収入と支出の記録はしていますが、あまり見ないようにしてます。ダメなとき、つらくならないので。ビジネス的ではないですが、健康にはいいです。なので、はっきりわかりませんが、感覚的には月15〜20万くらいかな? もっと小さく回していくこともできると思いますよ。
不安はまったくないですね。それは、大家さんが、店を始めやすい、続けやすい契約条件を設定してくれたこと、あと、僕のやり方を応援してくれている人も多いからだと思います。
とにかく長く続けてほしいというのが大家さんの考えで、更新料もありません。更新のタイミングがくると、このまま続けるか、ここを出て行くか、考えるきっかけになってしまうので。そういう考えを持った大家さんたちに出会えたのは、幸運でしたね。そういう出会いがあれば、自分で店をやってみようという人が、もっと増えるんじゃないかな。
西東京よりは安く借りられ、古い建物を改装して自分のスペースをつくることができるケースがまだあること。初期費用はかかるかもしれませんが、ランニングコストを抑えて、長く続けやすい環境にできることがメリットではないでしょうか。
僕はビジネス的に大きくしていくことには興味と勇気がないので、それよりも自分と自分のまわり、コミュニティが面白くなっていくことをやっていきたい。余裕のある時間や気持ちはそこに向かいたい。創業の考え方は人それぞれですが、僕のようにコミュニティやライフスタイル重視の考えの方にとって、東東京はいい所だと思いますよ。
〒131-0046東京墨田区京島3-50-14
http://muumuucoffee.moo.jp/
https://www.facebook.com/halahelu/
写真:イシバシトシハル
下町住まい7年目の雑食系ライター。仕事人の情熱を適切な言葉に落とし込み、必要としている人に届けることをめざし、トヨタOPEN ROAD PROJECTやコーヒーマシンのサイトにてコラム記事を執筆中。