トップインタビュー月4000泊を超える西新井のホステルで、地域と訪日客をつなぐ

2017.07.05
月4000泊を超える西新井のホステルで、地域と訪日客をつなぐ

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エンブレムジャパン株式会社
代表 入江 洋介さん
(右から3人目)

2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、新しいホテルやゲストハウスのオープンに拍車がかかっています。その中でも東東京で注目を集めているのが、足立区にある「エンブレムホステル西新井」。2015年12月の開業以来、訪日客の人気を集め、口コミサイト「トリップアドバイザー」のランキングで東京1位を獲得するなど、多くの海外ゲストを魅了し続けています。

その秘訣は、地域や人との「つながり」をサービスの核に据えていること。同ホステルを立ち上げた入江洋介さんは、「ゲストと我々スタッフ、そして地域の三者の結び付きが大切」と話します。

地域に住むような宿泊体験を提供

まず、エンブレムホステル西新井の特徴を教えてください。

店名に「ホステル」とある通り、グループ利用を想定した4人部屋を中心に、180名以上が宿泊できる宿泊施設です。1986年に竣工した8階建てのビジネスホテルを改修しました。建物は出資企業の1社が所有し、我々は賃借して運営・オペレーションを担当しています。

西新井の駅から徒歩1分、近くには西新井大師という関東三大大師や相撲部屋があるなど、海外ゲストが日本の下町の活気を体感するにはぴったりのエリアにあります。

「つながりを軸に面白いホテルをつくる」という想いから、2階のフロント脇には、地元の人も自由に利用できる70席以上の広々としたカフェ&バーを併設しています。

料金は1泊2000円台から。季節によって波はありますが、月に延べ4000泊以上のゲストを迎えています。ここに宿泊する人の半分以上は欧米からのゲストなのですが、つながりをつくることを意識したサービスが、特に欧米系のゲストに評価をいただいているのだと思います。

写真:エンブレムホステル西新井

フロント横のカフェ&バー

なぜ「つながり」をコンセプトにしたのでしょうか?

アメリカなど海外に延べ15年暮らし、40カ国以上を旅してきました。そんな自分の人生を振り返ると、人と人とのつながり、新しい出会いがあらゆる場面を支えてくれました。

旅行も同じで、観光した記憶よりも、その土地での出会いが記憶に残っている。人が僕にとっての旅の醍醐味なんですね。

海外からのゲストの気持ちになっても、ローカルの人がどんな生活をしているかが気になるはずです。ホテルではなく、相部屋を基本としたホステルという業態を選んだのも、つながりをもっとも実現できる業態だと思ったからです。

具体的には、どのようなサービスを提供していますか?

ワークショップのほか、エリア内にある相撲部屋や銭湯を見学する地域ツアー、海外ゲストと仲良くなりたい人を集めたミートアップイベントなど、ゲストが地域と積極的に交流できるイベントを企画しています。

写真:エンブレムホステル西新井

地元とのつながりを生かした、寿司づくりのワークショップ。ホステルのすぐ近くにある寿司屋さんで開催

接客スタッフのことはコネクターと呼び、ゲストと地域に住む人、そして私たちの三者をさまざまな形でつなぐことを常に考えています。スタッフ間ではゲスト同士をつなぐことをコネクトと呼び、「今日いくつコネクトした?」と、つなぐことが自分たちの喜びにもなっています。

サービスの軸はすべてつながりがベースですから、企画するときには「お客様はいっぱい来るかもしれないけど、つながりは生まれているか?」と問い掛けますし、つながりが生まれなければ、私たちがやる意味はないとさえ思っています。

写真:エンブレムホステル西新井

毎週月・水・金に行われるミートアップイベントは、新しい出会いを求める参加者で毎回大にぎわい

東東京の魅力は「つながる」雰囲気があること

どういう経緯で、宿泊事業を立ち上げたのですか?

不動産のなかでもエンターテイメント性が高いホテル事業で起業したいという思いは、10年以上前からありました。

もともとは不動産会社に勤めていたのですが、ホテルの可能性に目覚めてアメリカの大学でホテル経営を学び、コンサルタントとしてホテルチェーンの事業計画や売買支援に関わるようになりました。その後、起業に至ります。

創業の地である足立区西新井には、何か縁があったのでしょうか?

全くの偶然です。物件を紹介されるまでは、西新井を訪れたこともありませんでした。

実際に来てみると、やや都心からの距離はあるものの暮らしのための利便性は高いですし、下町ならではの体験ができる場所ということが分かりました。そしてこれは東東京全体に共通していることだと思いますが、街全体でつながりの意識がとても強いんです。

私たちが目指す「つながりを軸に面白いホテルをつくる」という理念とも通じる部分が大きいので、結果的に足立区で本当によかったと思います。行政の方々もすごく熱心で、区役所のさまざまな部署から外国人を絡めたイベントなどの相談を受ける機会も多いですね。

写真:エンブレムホステル西新井

3階のテラス。バーベキューイベントなどを開催し、ここでも地元と宿泊客の交流が生まれます

苦労が多い創業初期を乗り越えるには、どんなことが必要だと思いますか?

ひと言でいうと気合いだと思います(笑)。

経営者の悩みの多くは人とお金だと言われますが、悩みが深刻になって「もういいや」と精神的に追い詰められる瞬間もあるはずです。そこでいかに踏ん張り続けられるかがすべてです。

エンブレムホステルは、食にも力を入れているのですが、シェフの人事がうまくいかず「明日からランチは休まないといけない」という状況に追い込まれたこともあります。営業を止めることはブランドイメージの損失になりますから、それだけは絶対に避けたかった。どうしようもなくなくなって、最終的には自分の母親に頼み込んで乗り切りました。

事業をやっていると、それくらいのピンチはいくらでもあります。その状況を乗り越えていくエネルギーをいかに持てるかが大切だと思います。

写真:エンブレムホステル西新井
エンブレムホステル西新井(Emblem Hostel Nishiarai)
東武スカイツリーライン線「西新井駅」から徒歩1分の場所に2015年12月開業した、182名を収容する都内最大級のコミュニティ型ホステル。ここでの新しい出会い、体験を求めて世界中からゲストが集まる。
東京都足立区梅島3-33-6
URL:http://emblemhostel.com/

この記事を書いた人

星野智昭

コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。