ファッション・小物・雑貨モノづくり支援シェアファクトリー
nuuiee(株式会社 小倉メリヤス製造所) 代表
小倉 大典さん
古くから多くの繊維産業が集まる両国の地に、ファッションや雑貨づくりの道を志す人を応援するシェアファクトリー“nuuiee(ヌーイー)”が生まれたのは2016年4月。
代表の小倉さんは、この場所を「収益を出す場とは考えていない」と言い切るなど、請負生産が多い本業の縫製業とは大きく異なる発想で、夢や目標を持つ人を強力にフックアップ。「なんでも相談して欲しい」という間口の広さも手伝い、オープンから1年も経たないうちに、多くの利用者が飛躍の機会を獲得しはじめているほか、本業の縫製業への問い合わせ数も増えているそうです。
事業性の優先順位を落としてまでも、作家の支援にこだわる小倉さんの熱意の源にはどんな思いがあるのかを伺いました。
ここは、「糸偏(いとへん)業界のプラットホームになりたい」という想いからオープンしたシェアファクトリーです。デジタル刺繍機、布用プリンター、レーザー加工機、カッティングプロッターなどのデジタルファブリケーションを自由に使える場を用意して、ファッション・雑貨を中心としたものづくりを支援しています。
生地やボタンなど、プロ仕様のマテリアルも自由に仕入れることができ、簡易スタジオでは、出来上がった作品を撮影して、minneやCreemaなどの通販サイトにすぐアップすることもできます。
2016年4月のオープンと同時に入会いただいた会員No.1の小野未貴さんは、先日「TELEPATHY(テレパシー)」というアパレルブランドでデビュー、初めての展示会も大成功されました。小野さんは、nuuieeの設備を使い、仕入れた生地で、作品を作ってくれているデザイナーさんです。直近の展示会での大きな反響を受けて、今後の現物生産に向けた相談にも乗るところです。
また、人形作家・イラストレーターの佐藤舞香さんも初期からの会員さんです。nuuieeのインクジェットプリンタを使い、さまざまな色柄の生地を作れるようになったことで、人形の洋服のデザインの幅が広がり、お客様から好評をいただいているそうです。
布用プリンターで自由な生地が作成可能になったという人形作家の佐藤舞香さん
はい、現在も本業は縫製業です。個人の作家さんや小さなブランドが軌道に乗りはじめると、ひとりでは作りきれないほどの商品数が必要になることがあります。nuuieeは本業での経験を活かして、縫製に関する相談にも細かく答えられることが大きな特長です。
さらに、墨田区周辺には、繊維に関連する企業がたくさんあります。当社は両国を中心としたTKF東京ニットファッション工業組合(http://www.tkf.or.jp/)にも所属しているため、縫製だけでなく、生地の製造・刺繍・糸の販売など、このnuuieeを起点として、さまざまな企業とのネットワークを利用することができるんです。
nuuieeをきっかけに、作家さんや小さなブランドが事業をステップアップさせて、縫製を中心とした当社のOEMをご利用いただけるくらいにまで成長をしてもらうことが理想のカタチです。
デジタル刺繍機などの設備を自由に使うことができます。利用に当たっては講習が必要です
nuuieeという場を、“ものづくりの支援”や“作家さんの応援”の場にしたいと思った原点は、私の高校時代にあります。
当時、私は応援団に所属していました。応援団には全国大会があるわけではないので、喜びといえば全力で応援した運動部の友達から「小倉ありがとう!」と言われることだけでした。
大学時代に、奄美の加計呂麻島でダイビングショップの住み込みバイトをしていた時は、頼まれてもいないのに「せっかく来てくれたお客様に、良い思い出を持って帰って欲しい!」と、いろいろな工夫や企画をすることが楽しみでした。
そして“人の応援”が自分の最大の喜びだと確信した最大の理由が、家業である縫製工場を引き継ぐまで教員をしていた、専門学校での経験です。
医療事務職を育てる女子校だったんですが、就職支援など人生の大切な場面をサポートする役回りもあり、卒業時の謝恩会ともなると、まるで金八先生かというくらい、生徒全員が泣きながら「オグありがとう!」と言ってくれるのです。当然僕も大泣きしてしまいます(笑)。
その経験が「人の応援をビジネスにもつなげられないか?」と考え始めたきっかけです。今では、残りの人生すべてをかけて、誰かの応援に取り組みたいと考えるまでになりました。
セミナーでは小倉さん自らが講師役を努めることも
個人の作家さんが、展示会に出す時に困るのがサンプルの製作です。なかなか小ロットの縫製を受けてくれる工場も少ないのが実情です。
私たちは、そのオーダーにできるだけ応えるようにしています。パタンナーもいますから、たとえものづくりの経験がなくても「こんなデザインの服が作りたい!」という思いさえれば、カタチにすることもできます。
私の理想は、「出世払いでいいから!」と、学生に無料で大盛りのご飯をふるまう定食屋の親父です(笑)。ブランドとして有名になるならないは関係ないんです。夢や希望を持っている人と、上下関係なく、気軽に話し合いながら一緒に新しいものを生み出せる関係が理想。たとえ今はものづくりに興味がない人でも、ワークショップなどを通じて楽しさを知ってもらいたい。これからも、どんどん、ものづくりの底上げをしていきたいですね。
コピーライター。群馬県桐生市に住み、東京とのデュアルライフ実践中。ものづくり支援が盛んな東東京の先進的な取り組みを、繊維産地である地元企業のブランディング、販促支援にフィードバックすべく送り込まれたスパイ。